狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 リオが不審に思っていると、アシュレイがデックに何かを言う素振りが見えた。次にデックが、真横にいた魔獣に手のひらで触れた。
 すると今まで微動だにしなかった魔獣が、恐ろしい咆哮ほうこうと共に、こちら側へ走ってきた。

「ギデオン!」
「大丈夫だ!矢をつがえろ!」

 リオはギデオンに腕を掴まれ、並んだ騎士達の後ろに下がる。
 アンもリオから離れないようついてくる。
 リオは、いつでも魔法が使えるよう、手のひらに力を集中させる。

「ビクター!頼む!」

 ギデオンがビクターに叫ぶと、ビクターが頷き、魔獣の前足がこちらの岸に届く前に「放て!」と号令をかけた。
 矢が雨のように、魔獣の身体に降りそそぐ。恐ろしい声を上げて、岸辺に倒れた魔獣に、二名の騎士が剣を振り下ろした。
 リオはホッと息を吐いた。しかし安心はしていられない。今の魔獣は、頻繁に出没する魔獣だ。腕の立つ騎士ならば、一人でも倒せる。問題は、まだ対岸に鎮座ちんざしている二体の強大な魔獣だ。雪山に現れた魔獣のように、毒を撒かれたら堪らない。大きな腕のひと振りで、騎士達や馬が飛ばされたら堪らない。いや、飛ばされるだけならいいが、確実に骨を折られ身体が潰される。

「まだ俺は、そんなに体力がついてないのに…」

 リオのつぶやく声が聞こえたのか、ギデオンに「おまえは動くなよ」と釘を刺された。

「うん、わかってる。ギデオン、あの強大な魔獣が襲ってきたらどうする?」
「今のように攻撃するしかあるまい。森の中の、俺の部隊も使う。だが…」
「なに?」
「リオが話していた通りだ。デックとかいう男、もう疲れたようだぞ」 
「え?」

 リオは、前に並ぶ騎士達の間から、対岸を見た。デックが、片膝を着いて俯いている。

「デック…辛そう。かなりの魔力を使ったんだ」
「そのようだな。あの男は、おまえよりも力が弱いのか?」
「昔はそうだったけど、今はどうかわからない…。だけど、あの様子じゃ、俺の方が魔力が強いかもしれない」 

「そうか」とギデオンがリオの頭に手を乗せる。

 「デックが魔法を使えなくなったから、他の魔獣がこちら側に来る心配は無くなったと思う。数日は、再び睨み合いになるかも」

 そうリオがギデオンに告げていると、対岸からアシュレイ王子の声が聞こえてきた。

「どう?降参する気になった?」
「はあ?」

 ギデオンが反応するよりも早く、リオの口から声が出た。腹が立って思わず出た「はあ?」だ。
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