狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「リオは後ろへ下がれ」
「嫌だ」
「言うことを聞いてくれ。俺はおまえを危険な目に合わせたくない」
「俺もギデオンを危険にさらしたくない」

 リオは頑として動かない。
 ギデオンは怖い顔をして、再度「下がれ」と言ったが、リオは聞かない。そんな顔をされても怖くない。
 ギデオンは諦めたように息を吐くと、「アン、リオを守れ」とアンを見た。
 アンがリオの前に立つ。
 リオは、アンの全身をじっくりと見た。
 国境に来てからの数日の間に、また大きくなった。狼くらいの大きさだろうか。いや、それよりも大きい気がする。いつか、夢で見たような美しい翼を生やして、空を飛ぶのではないか。そうなれば嬉しい。アンが空を飛ぶ姿を見てみたい。
 しばらく川を挟んで睨み合ったが、一向に矢は飛んでこない。敵が矢をつがえる素振りもない。
 ギデオンもビクターも、こちらからは動く気はないらしく、根気強く待っている。
 半刻は睨み合っただろうか。並んだ魔獣の間から、青灰色の髪の男が出てきた。
 リオは、思わず声を上げる。

「アシュレイ王子!」
「あの者がそうか。珍しい髪をしている」

 アシュレイは、水に浸かりそうなほど川の近くに来て、リオに気づいて手を上げ、大声を出した。

「やあ、元気だったかい?君も参戦すると思っていたよ」
「当然。あんたに好き勝手やらせないためだ」

 リオも声を張上げる。

「勇ましいね。君の隣にいる男が狼領主かな。初めまして」
「どうも。ずいぶんと勝手なことをしてくれたな」

 ギデオンも、よく通る低い声を、いつもより大きく出している。
 アシュレイの笑い声が、風に乗って運ばれてくる。

「戦を始める時って、こんなものでしょ?俺は優しい王子で通っているんだ。だからね、戦う前に降参してくれたら、軍も魔獣も引き上げるよ」
「断る」
「ふーん?この魔獣を見てよ。滅多に見ない強い魔獣だ。君たちの剣も矢も効かない。腕のひと振りで、何十人もが死ぬよ」
「だからなんだ。そもそも魔獣が人の言うことを聞くのか。逆におまえ達が襲われる可能性だってある」
「それが我が国には優秀な子がいてね」

 アシュレイが手を上げる。

 奥からデックが出てきた。袖と裾に金の縁どりがついた、高価そうな白い服を着て。
 リオはデックと遠目に見つめ合った。だけどすぐに逸らされる。リオは違和感を感じた。
 なぜ逸らした?何か隠してる?しかもあの格好はなんだ?
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