狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 リオがそっと足下を見る。アンが鋭い目つきで、ギデオンを睨んでいる。

「なんだ、いてるのか?おまえがリオを好きなことは知っている。だが俺も好きだ。それにリオも嫌がってないだろうが」

 フンっと鼻を鳴らして、アンがリオに頭をすりつける。
 リオは照れ隠しのためにしゃがむと、アンを抱きしめて笑った。

「俺はアンも好きだよ。今年もよろしくな」

 アンは、頷くかわりにリオの顔を舐める。ギデオンの唇が触れた箇所を上塗うわぬりするように。
 ギデオンは、呆れたような、面白くなさそうな顔をしてアンを見ていたが、ビクターに呼ばれたために、「行ってくる」とリオの頭を撫でて離れた。
 リオは、離れた場所で、ビクターと話すギデオンを見て、目を細めた。
 初めてキスをされた。人生で初めてのキスだ。ドキドキしたけど、すごく嬉しい。それに…なんか…気持ちよかったな。
 ギデオンを見ていると、どうしても頬が緩んでしまう。いつ魔獣に動きがあるかわからない緊迫した状況なのに、浮かれてたらダメだ!
 冷たい両手を頬に当て、熱を冷ましていると、『動くぞ』と男の声がした。

「え?なに?」

 周りを見るけど、アンしかいない。
 ギデオンとビクターは離れた場所に、アトラスやジスも、叫ばなければ聞こえない場所にいる。
 リオは、対岸を見つめるアンを見た。

「まさか…ね」

 アンは賢い。それに犬や狼ではなく魔獣のような存在。だけど、人語を話す魔獣は、見たことも聞いたこともない。アンは特別だけど…まさか…。

「え?ほんとに?今の、アン?」

 アンに向かって話しかけたその時、対岸から魔獣の咆哮ほうこうが聞こえた。
 それが合図だった。対岸の森から数十名の騎士が出てきて、横一列に並ぶ。
 やっぱりアシュレイは軍隊を連れてきていた!
 リオは、ギデオンのもとへ走り出す。そしてギデオンを庇うように、両手を広げて前に立つ。
 しかしすぐに、ギデオンによって後ろに下げられた。

「待て、何をしている。危険な真似はするな。まずは様子見だ」
「でもっ」

 リオは不安にかられた。
 向こうの騎士達の手に、弓矢が握られていたから。以前に見た、ギデオンに向かって矢が放たれた悪夢を思い出したから。
 しかし焦るリオの隣で、ギデオンは落ち着いている。ビクターと目で合図をかわし、こちらも同じように横一列に騎士を配置する。ただ、ギデオンの部隊は、まだ森の中に隠れている。
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