狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「ここに来る道中で困ってる人がいてさ、皆で助けていた時に、ケリーに路地へ引き込まれたんだよ。俺は身体を押さえつけられて動けなくて、魔法を使おうとしたら足を刺されて…。もう片方も刺されそうになった時、アンが助けてくれたんだ。ケリーに思いっきり体当たりして。アンが来てくれなかったら、もっとひどい怪我をしていたかもしれない。だから、アンには感謝してるんだ」
「そうか…。アン、よくやった」

 静かな声が、耳に心地よい。
 ギデオンは、腕を伸ばしてアンを撫で、次いでリオの頭を撫でた。

「え?なに…」
「おまえも頑張ったな」
「頑張ってない…。油断してケリーに捕まるし、結局はアンとビクターさんに助けられるし…」
「だが、ビクターから聞いたぞ。一言も泣き言を言わなかったそうじゃないか。えらいぞ」
「いや…まあ、俺はずっと一人で生きてきたから…泣いてなんかいられないし、泣く暇があったら何とか打開策を考えたいし」
「そうか。だが、俺の前では泣いてもいいのだぞ」
「泣かない。ギデオンこそ、常に無理してない?俺の傍でだけ泣いてもいいんだぜ」
「ほざけ。騎士は人前で涙を見せぬ」
「だから俺の前だけだって」
「…まあきもめいじておく」
「あはっ、なにそれ」

 平気な振りをしていたけど、本当はケリーに襲われて怖かった。刺されて痛かった。でもギデオンと会えて話して、身体の力が抜けた。そうしたら眠くなってきた。緊張が続いてかなり疲れていたのだ。
 リオは大きな欠伸あくびをして目をしばたたかせる。
 ここで寝るなベッドへ行けと怒られるかなと思ったけど、ギデオンは何も言わない。リオの頭が揺れて、ギデオンの肩に寄りかかる。それでもけられることはなく、ギデオンから香る微かな良い匂いと体温が気持ちよくて、目を開けていられなくなった。完全に瞼が閉じる瞬間、リオの額に柔らかいものが押し当てられる感触がした。

そして夢を見た。今度はアンの夢ではない。ギデオンの夢だ。ギデオンが、横一列に並んだ騎士達の先頭にいる。騎乗して前方を睨みつける姿が、とても凛々しい。リオは、思わず見とれていたが、矢をつがえる人物がいることに気づいた。その矢の先にいるのは、ギデオンだ。逃げて!とリオは叫んだ。でも声が出ない。走ろうとした。だけど足がもつれて早く走れない。何とかしなきゃと焦っているうちに、矢が放たれた。「やめろー!」と叫んだ瞬間、目が覚めた。
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