狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

文字の大きさ
上 下
154 / 241

154

しおりを挟む
「うわあっ」
「しっかり掴まっておけよ。落ちるぞ。アトラス、リオの馬を連れてきてくれ」
「はい」
「その犬は気にかけなくともついてくるな?」
「大丈夫です。アン、迷わずについてきてよ」

 アンが大きく頷き、ビクターの馬から数歩離れて待機する。
 ビクターが周りを見て、アトラスに聞く。

「ところで荷馬車の男はどこに行った?」
「リンゴを渡すと、すぐに横道にれて行ってしまいました。…あ!もしかしてっ」
「ああ、ケリーとグルだったのかもな」
「くそっ、あいつ…人の親切心を利用しやがって!」

 怒るアトラスを後目しりめに、ビクターが馬を走らせる。狭い道なので、周囲に気を配りながら軽快に進む。そして予定の半分以下の時間で王城に着き、騎士の専用門から中に入った。ビクターの顔がよく知られているからか、特に門番に怪しまれることなく、中に入れた。

 ビクターに支えてもらいながら、城の隣の建物に向かう。荷物はアトラスが持ってくれている。アンは、時おり心配そうに見上げながら、リオのすぐ傍を歩いている。シズは、ニコラを捜しにどこかへ消えた。
 リオは、てっきり医務室みたいな部屋に行くのだと思っていた。だから着いた部屋にいた人物を見て、驚き叫んだ。

「ギデオン!どうしてここに?報告は終わった?」
「リオ!おまえこそなぜここに?体調は良くなったのか?あっ、怪我をしてるではないか!」
「まあ落ち着け」

 今にも突進してきそうなギデオンに手のひらを向けて、ビクターがなだめる。そしてリオを布張りの柔らかそうな椅子に座らせた。
 即座に、アンがリオの足に身体を寄せて伏せる。

「ビクター、どういうことだ」
「だから落ち着けって。見ての通り、リオが襲われて怪我をした。危険だから王城に避難させた。以上だ」
「は?誰が襲った?」
「ケリーだよ」
「ケリーだと?王都に来てるのか?」
「来てる。あいつ、しつこいねぇ。そんなにもリオが好きなのかねぇ」
「くそっ、ケリーを見張っている者達は、何をしていたのだ?そんなことよりもリオ!怪我を見せてみろっ」

 ギデオンが椅子に飛びつき、リオの足の手巾を強引に取ろうとする。その時、扉の外から声がして、医師が入ってきた。医師の後ろにニコラとジンもいる。
 医師はリオの前に来ると、リオに群がる皆を「治療の邪魔です」と部屋の外に追いやる。しかし大人しく座るアンだけは、外に出されなかった。どうやらこの医師は、動物好きらしい。

「君は犬?狼?なんだろうね。美しい造形をしている」
「俺にもよくわからないんですけど、賢くてかわいいです」
「そのようだね。見たらわかるよ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子からは逃げられない!

krm
BL
僕、ユーリは王家直属の魔法顧問補佐。 日々真面目に職務を全うしていた……はずなのに、どうしてこうなった!? すべては、王太子アルフレード様から「絶対に逃げられない」せい。 過剰なほどの支配欲を向けてくるアルフレード様は、僕が少しでも距離を取ろうとすると完璧な策略で逃走経路を封じてしまうのだ。 そんなある日、僕の手に謎の刻印が浮かび上がり、アルフレード様と協力して研究することに――!? それを機にますます距離を詰めてくるアルフレード様と、なんだかんだで彼を拒み切れない僕……。 逃げられない運命の中で巻き起こる、天才王太子×ツンデレ魔法顧問補佐のファンタジーラブコメ!

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜

天宮叶
BL
十歳の誕生日の日に森に捨てられたソルは、ある日、森の中で見つけた遺跡で言葉を話す剣を手に入れた。新しい友達ができたことを喜んでいると、突然、目の前に魔王が現れる。 魔王は幼いソルを気にかけ、魔王城へと連れていくと部屋を与え、優しく接してくれる。 初めは戸惑っていたソルだったが、魔王や魔王城に暮らす人々の優しさに触れ、少しずつ心を開いていく。 いつの間にか魔王のことを好きになっていたソル。2人は少しずつ想いを交わしていくが、魔王城で暮らすようになって十年目のある日、ソルは自身が勇者であり、魔王の敵だと知ってしまい_____。 溺愛しすぎな無口隠れ執着魔王 × 純粋で努力家な勇者 【受け】 ソル(勇者) 10歳→20歳 金髪・青眼 ・10歳のとき両親に森へ捨てられ、魔王に拾われた。自身が勇者だとは気づいていない。努力家で純粋。闇魔法以外の全属性を使える。 ノクス(魔王) 黒髪・赤目 年齢不明 ・ソルを拾い育てる。段々とソルに惹かれていく。闇魔法の使い手であり、歴代最強と言われる魔王。無口だが、ソルを溺愛している。 今作は、受けの幼少期からスタートします。それに伴い、攻めとのガッツリイチャイチャは、成人編が始まってからとなりますのでご了承ください。 BL大賞参加作品です‼️ 本編完結済み

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

処理中です...