狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 馬に乗って去っていくビクターを窓から見送っていると、知らせに行く前にアトラスが来た。リオの名を呼ぶと同時に扉を開けて、突進してきた。

「リオ!ビクターさんは何の用事だったの?」
「特別な風邪薬を持ってきてくれたんだよ。すごいよ、もう鼻づまりが治ってきた」

 アトラスの肩を押しながら、リオは部屋の中央まで戻る。
 二人のやり取りを、扉の近くで伏せているアンが、静かに見ている。
 アトラスは安心したように「そうか、よかった」と笑った。

「それよりも、アトラスもシズもニコラさんも、荷物をまとめてくれる?王城に行くよ」
「え?なんで?」

 今度は目を丸くするアトラスに、ギデオンと正反対で、本当に表情が豊かだなとリオは感心する。

「ここは危険だから。王城の方が安全だから来いって。ビクターさんが」
「危険?なんで?誰かに狙われてるの?」
「昨夜、窓の外にケリーがいた。こちらを見上げて、迎えに行くって言ったんだ」
「えっ!あいつ何してんの?迎えに…って、リオを?」
「そうみたい」
「わかった!俺がシズとニコラさんにも言っておく!リオは早く荷物まとめて!少しでも異変があったら、すぐに知らせに来いよ?というかアン、リオを守れ」

 アンが『おまえに言われなくとも心得ている』というように、ゆっくりと立ちあがり、鋭い目つきでアトラスを見る。
 アンに睨まれたアトラスは、少しひるんだ様子で、「じゃあ後で!」と部屋を飛び出した。
 リオはアンの背中を撫でながら苦笑する。

「アトラスといると、緊張感がなくて困る。まあ楽しいからいいけど」

 アンはリオを見ると、鼻から息を吐き出して、その場に伏せた。
 その様子を見て、アトラスは完全にアンには下に見られてるな、とリオは更に苦笑した。


 宣言通り、ビクターは半刻で戻ってきた。
 すでに支払いを済ませ、馬に荷物をくくりつけて、宿の前で待っていたリオとアトラス、シズとニコラは、ビクターの下へ集まる。
 リオはビクターから偽の身分証を受け取ると、首にかけていた本物の身分証を鞄に入れ、偽の身分証を首にかけた。
 そしてビクターを先頭に出発する。
 王城までは、四半刻もかからない。そんな短い王城までの道中で、事件が起こる。

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