狼領主は俺を抱いて眠りたい

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 城に戻るなり、ギデオンはゲイルと共に執務室にこもってしまった。
 アトラスやロジェ、他の騎士達も忙しそうに動いている。リオも、自分だけ部屋で休んでられないと、荷物を持ったまま庭に向かっていると、どこかへ消えたはずのアトラスに、いきなり腕を掴まれて怒られた。

「ちょっとリオ。どこへ行くつもり？」
「え？庭だけど」
「なんで？」
「仕事をするためだよ」

「はあ」と大きなため息をつかれて、リオは思わず口を尖らせる。

「なに？ダメなの？」
「ダメに決まってるだろ。リオは体調が悪いから部屋で休ませるよう、ギデオン様からきつく言われてるの、俺が」
「なんでアトラスが？」
「リオに言っても、素直に休まないだろうからって。おまえが責任をもって休ませろって。リオはきっと、皆が働いてるのに休むのは悪いと考えるだろうからって」
「う…」

 読まれてる。俺の思考が、ギデオンに完璧に読まれてる。
 リオは、言葉に詰まり下を向く。
 大人しくなったリオの腕を引いて、アトラスが歩き出す。

「俺はね、ここに帰ってきてすぐに、リオが休めるよう、使用人に指示を出してたんだよ。部屋に戻ったら、すぐに休ませようと思ってたのに…。まさか部屋にも戻らずに仕事を始めようとするとは驚きだよ。リオはさ、もっと自分を甘やかしなよ」
「十分甘くしてるよ」
「そうかなぁ。まあでも、ギデオン様がリオに甘いからいいか」
「は？え？違うしっ」

 リオが反射的に腕を振りほどく。
 アトラスが振り向きリオを見る。すごくにやけた顔で。
 なにその顔。なんか嫌だ。
 リオが嫌そうに睨むと、アトラスが「あれ？」と周囲を見回した。

「なんだよ」
「ところでアンはどこ？一緒じゃないの？」
「え？」

 リオも驚いて辺りを見るけど、アンがいない。城の中に入った時は、隣にいたのに。いつ、どこで消えた？
 身を翻ひるがえして走り出そうとしたリオを、アトラスが慌てて抱きとめる。

「待って待って！俺が探してくるからリオは部屋で待ってて！城内か庭を散歩してるだけだって。これ以上リオの体調が悪くなったら、ギデオン様の機嫌が悪くなるぅ」
「なんでギデオンの機嫌が悪くなるんだよ、意味わかんねぇ」

 がっしりと腹に回されたアトラスの腕を外そうと引っ張るけど外れなくて、リオは不機嫌に言う。直後に腕が緩んだので振り返ると、アトラスの方こそ意味がわからないという顔をして、リオを見ている。

「なんだよ？」
「いや…なんか…もう、嘘だろ…にぶ…ギデオン様も大変だな」
「はあ？なにゴチャゴチャ言ってるの？まあいいや。わかったよ、部屋で休んでる。やっぱりしんどいし。アンのこと、頼むな」
「任せろ。部屋まで送らなくても大丈夫？」
「大丈夫。ちゃんと戻れるから」

 ずっと奇妙な顔のままのアトラスに見送られながら、リオは部屋へと向かう。
 アトラスは何を言いかけていたのだろう？鈍いとか言わなかった？悪口か？俺は鈍くないぞ。それになんでギデオンが大変なんだ？俺は役に立ってはいるけど迷惑はかけてない。