狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「なあ、ロンは飛んだ方が早くないか?」
「いいんだよ。ロンは俺から離れたくないんだ。アンだってそうだろ?」
「アン!」

 アンがロンを見つめて鳴く。それに応えるようにして、ロンも「ピイ」と鳴く。
 アンは賢い。人の言葉をわかっている。ロンもそうなのか。そしてこの一匹と一羽の間でも、意思疎通そつうができているとリオは思っている。

「ほらな、アンもロンも可愛いよな。なぁリオ。こんな話を知ってるか?俺は隣国に来て、勉強するためにアシュレイの屋敷にあった本を読んでいて知ったんだけど」
「ふふっ、勉強?おまえが?」
「笑うなよ。ひまだったからな。それに隣国のことも知りたかった。その本にはさ、俺らのことが書いてあった」
「俺らのこと?」
「魔法を使う一族のことだ。かなりの昔には、魔法を使う一族は、世界のどこの国にもいた。しかし権力者がその力を独り占めしたいが為に、魔法を使う者をさらい、無理に力を使わせて死なせたりして、激減した」
「村一番の長老のおじいさんが、そんなこと話していたよな…」
「そうだな。それで今では村は無くなり、魔法を使う者はいなくなったとされてる」
「うん」
「実際は、俺達のように力を隠して暮らしてる人達が残っていると思ってる」
「俺も思ってる」

 リオは頷きながら、前を見る。
 デックはどこを見ているのかわからない。

「それでさ、確信したことがあるんだ。リオと再会して、リオから離れないアンを見て、ああそうかとに落ちたことがある」
「なに?」
「リオはさ、アンに選ばれたんだ。俺もロンに選ばれた。そして俺は、アシュレイと出会うべくして出会った。だからリオも…」
「どういうこと?全くわからないんだけど」
「これはすごいことなんだぜ、リオ。アンは…」

 デックが言葉を切った。
 緊張する気配が背中から伝わる。
 リオもアンを抱く手に力を込め、手のひらの光を消す。
 前方から複数の足音が聞こえ、ちらちらと松明たいまつが見える。
 何かが向かってきている。
 目を凝らして見ると、どうやら馬のようだ。しかも複数。商人?いや違う。騎士だ。顔に見覚えがある。見覚えがあるどころか、よく知っている。

「ギデオンだっ」
「やっべ。リオ、早く降りろっ」
「え?あ、うん」

 リオは慌てて馬から飛び降りた。
 デックは素早く馬首を返し「リオ!またな!」と言って走り去る。
 リオも「元気で!」と手を上げる。
 ほどなくして背後で足音が止まり「リオ!」とギデオンの声がした。
 リオは振り返り叫ぶ。

「ギデオン!大丈夫なの?」
「ああ。おまえこそ!来いっ」

 リオは、ギデオンが伸ばした手を、しっかりと掴んだ。
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