狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 その直後、左端に立っていた年嵩としかさの男が、よく通る声で商人を叱責しっせきする。

「やめろ!見苦しい。そのような子供を連れてきて魔法を使えると虚言を吐き、暴力を奮うなど最低だな。今すぐに出ていけ。さもなくば、捕らえて牢に放り込むぞ!」
「違うのです!本当にこいつは魔法を…っ」
「くどい!く失せよ!」

 男は吐き捨てると、商人とデックの横を通り過ぎ、正面玄関から出て行った。他の二人も商人を睨みながら出て行く。しかし青灰色の髪の男だけは、その場を動かない。
 商売に失敗した商人は、激怒してふところから小刀を取り出した。そしてデックに向けて突き出そうとする。
 デックは目を閉じて全身に力を入れる。しかし小刀がデックに届く前に、青灰色の髪の男が商人の手を叩き、小刀を落とした。そして上着の内ポケットから、ずっしりと重そうな袋を出した。

「この中に金貨五十枚が入っている。これでその子を買おう。もし拒否をするなら俺がおまえを斬るが?」
「へ?いえっ!あ、ありがとうございます!」
「これを受け取ったら、ただちに出て行け。そして二度と王都へ来るな。もし貴様を見かけたら、有無を言わさずに斬る!」
「ひっ…はいっ!」

 青灰色の髪の男は、早く去れと言わんばかりに右手を振る。
 商人と護衛の男が、転ぶようにして出て行くと、すぐさま扉を閉めて鍵をかけ、デックの前に戻ってきた。

「ひどい目に合ったな。痛いだろうに、よく声を出さずに耐えたな。えらいぞ。俺はアシュレイという。おまえの名は?」

 アシュレイがデックの背中を支えて起こしながら聞く。
 優しい物言いに驚き困惑しながら、デックは答える。

「…デックです。あの…」
「デックか。よく聞け。俺がおまえを買った。だから今は俺の物だ。俺の力になってくれないか?」
「俺があなたの力に…?」

 デックはアシュレイに見とれた。
 近くで見ても、珍しい髪と瞳、そして整った顔がきれいだ。
 思わず口から漏れた「きれいだ」と言う言葉に被せて、アシュレイが「きれいな顔が台無しだな」とデックの頬に触れて苦笑する。
 その瞬間、デックは呻いて顔を歪めた。口の中が切れて痛い。危険が去って安心したからか、顔や腹や足などの殴られ蹴られた箇所も痛み出した。
 その様子を見て、アシュレイが「立てるか?」と聞いてくる。
 デックが頷くと、腕を引いて立たせてくれて、階段裏の部屋で手当をしてくれた。
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