狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「リオ」とアシュレイに呼ばれて、顔を上げる。目が会い、黄色い瞳に惹き込まれそうになる。珍しい色だが、アシュレイによく似合っている。

「はい」
「俺達と一緒に来る気はないか?」
「ないです」

 いきなりの質問に驚いたが、リオは即答する。

「ギデオンと離れる気はないです。俺はギデオンの傍で、ギデオンの役に立ちたい」
「ふっ、そうか。リオがそれほど言う狼領主に、一度会ってみたいものだな。デック、説得は難しいようだぞ」

 アシュレイがデックに向かって笑うと、静かに立ち上がる。

「二人とも積もる話もあるだろう。リオ、そうかずにゆっくりと休むといい。まだ顔色が悪いようだ。俺は自室にいるから、何かあれば呼んでくれ」

 そう言うと、アシュレイは出ていった。
 扉が閉まり足音が聞こえなくなったところで、リオが口を開く。

「なあ、あの人は、俺達の魔法のこと知ってるのか?」
「知ってる。だけど絶対に人に言いふらしたりはしない」
「信頼してるんだな。長いつき合いなんだって?いつどこで知り合ったんだ?」
「追々に話すつってんのに…せっかちな奴だな。まあいいか、いずれ話すつもりだったから、今話しても」

 こっちとデックが手招きする。
 リオは指図されるままに椅子に座る。アンもついて来て、リオの足に身体を寄せて伏せた。
 デックが棚の上のガラスびんから二つのグラスに水を注ぎ、それを机に置いて正面に座る。そしてひと口飲むと、少し考える素振りを見せた。
 リオも水を飲んで黙って待つ。
 リオの視線に気づいたデックは、小さく深呼吸をすると、「七年前のあの日…」と静かに話し出した。


 七年前のあの日、デックは誘拐された。
 たまたま村の外で魔法を使っている所を見られて、逃げる隙もなく口と身体を縛られ連れ去られた。
 連れ去ったのは悪徳な商人で、魔法を使ったデックを目撃するなり、護衛の大男に命じてデックを気絶させ縛ったのだ。この商人は魔法を使う一族のことを知っていた。商売で遠出をするたびに森の奥深くや山奥の辺鄙へんぴな場所を捜していたらしい。
 デックが目覚めると馬車に乗せられていた。何日も馬車に揺られ隣国にまで連れてこられた。
 村から遠く離れ、しかも国を出てしまい、デックは不安でたまらなかった。隙を見て逃げたいが、両腕を縄で縛られているために魔法が使えない。助けてと叫ぼうものなら、護衛の男に張り倒される。
 そのうち、とても賑やかな街に着いた。食事を運んでくる召使の男が「王都に着いたぞ」と言うのを聞いて、震えた。

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