狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 鼻がこそばゆくて、リオは自身のくしゃみで目を覚ました。ゆっくりと目を開けると、黒い毛が視界に入る。ギデオンの髪の毛?にしては毛深いような…。

「なんだ、アンの毛か」

 そっと無でて気づいた。アンがリオにへばりつくようにして眠っている。リオが心配で、ずっと傍にいてくれたのだろう。
 しかし久しぶりによく眠れた。ギデオンが傍にいないと眠れなかったのにどうして…と身体の向きを変えた瞬間、「体調はどうだ?」と低い声と共に手が伸びてきて叫んだ。

「わあっ!」
「よかった、元気そうだな」
「…ギデオン、いたの?」
「いるに決まっている。魔獣の討伐に来てから、ほぼ眠れていなかったのだから、おまえがいて隣で眠らないわけがないだろう」
「そっか。じゃあ眠れた?」
「ああ」
「…今って夜?」
「真夜中だ。まだ朝まで長い。もう一度眠ろう」
「うん…。ここは宿?」
「そうだ。明日には発つつもりだが、リオの体調が悪ければ、しばらく滞在する」
「ううん、もう大丈夫。だから早く城に戻ろう。あと、運んでくれてありがとう」
「いや、俺の方こそ、見つけてくれて感謝する」

 金色の髪に触れていたギデオンの手が、リオの頬をかすめる。
 何かを言いたげな様子の紫の瞳に見つめられて、リオは思わず身構えた。しかしギデオンは柔らかく微笑むと、リオから視線を逸らして天井を見る。

「ビクターから聞いた話も気になる。城に戻ったら、ケリーの動向をすぐに調べよう」
「うん、そうだね」

 リオは頷き、再び目を閉じる。
 そうだった、ケリーが近くにいるかもしれない。また俺に近づいてくるかもしれない。ギデオンの傍を離れないよう、気をつけなきゃ。
 リオがアンの方に身体を向けていると、なぜかギデオンがリオを抱き寄せた。
「え?え?」とリオは驚いたが、抵抗せずに大人しく背中でギデオンの体温を感じ、後頭部にかかる微かな息に心臓を高鳴らせる。
 正直、ギデオンに触れられることは嬉しく感じる。でも、どういうこと?ギデオンは、どうして俺を抱きしめるの?あ、そうか。俺はギデオンの安眠薬みたいなものだから、久しぶりによく眠れるように抱きしめてるだけなのかもな。
 リオはギデオンに抱きしめられて嬉しい。どうしてそう思うのか、自分の気持ちがよくわからないけど、嬉しい。でもギデオンは同じ気持ちではないのだと思って、嬉しいと寂しい気持ちで混乱しながら眠った。

 翌朝目覚めると、すでにギデオンは起きて着替えを済ませていた。アンも起きてリオの顔を舐めている。

「アン…おはよ。ギデオンもおはよう」
「おはよう。リオのおかげでよく眠れた」
「ほんと?よかった。ところで早いね?」
「ゲイルと会議だ。朝餉を運ばせるから、リオは先に食べていてくれ」
「うん、わかった。ケリーのことを話すの?」
「ケリーもそうだが、いろいろとな。俺の失態しったいについても」
「失態じゃないよ!だってギデオンは部下を助けたんだろっ」
「そうだが、他にやりようがあったはずだ。反省点はたくさんある。リオ、朝餉を終えたら支度を済ませておけよ。昼までに出立する」
「…わかったよ」

 リオは頷き、部屋を出るギデオンを見送る。
 ギデオンは部下を庇って大怪我までしたのに、感謝されるべきなのに、と不満に思う。だけど怪我はリオが治してしまった。だからギデオンが魔獣に飛ばされたことが、大事にはなっていない。
「ギデオンは英雄なんだよ」と呟いて、リオはベッドから降りた。
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