狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

文字の大きさ
上 下
99 / 241

99

しおりを挟む
 ビクターは最初、ケリーを不審に思わなかった。皆でギデオンを捜しているのだから、ケリーもそうだろうと思った。しかし、様子がおかしい。黙々と歩いていたかと思うと、急に足を止めて笑い出したのだ。主が行方不明になり、しかも生死がわからない時に笑うか?
 ビクターも足を止め、ケリーを注視した。
 ケリーはよほど浮かれていたのか、ビクターの露骨な視線に気づくことなく、笑いを堪えきれない様子で、滝とは反対側へと去って行った。
 ビクターは追いかけようかと迷ったが、ギデオンとリオのことが気になる。だからケリーの姿が斜面の上に消えるまで見送り、再びリオが通った形跡を辿り始めたそうだ。

「あいつ、ギデオンとリオが滝の裏にいる所を見たんじゃないか?話を聞く限りリオに興味を抱いてる様子。久しぶりにリオを見かけて興奮したとしか考えられぬ。また何かをしかけてくるのではないか?」
「そうかもしれぬ」

 呟くギデオンの背中で、リオは身体を震わせる。
 ケリーは俺のことを諦めてないの?まだ疑ってる?というか、魔法を使ってギデオンの傷を治しているところを見られたんじゃ…。

「だが心配はいらぬ、リオ」
「…え?」

 ギデオンがリオを背負い直して歩き出す。

「ケリーに手出しはさせない。今度は必ず守る。だから不安になることはない」
「ギデオン…ありがとう」

 後ろを歩くビクターが口を挟む。

「物騒だから俺も狼領主の城に滞在してやるぞ」
「いらぬ」
「なぜだっ」

 軽快な二人のやり取りに、リオは思わず吹き出した。
 二人はお互い口では嫌いだと言いながら、気の置けない友のように見える。もっとお互いに素直になればいいのに…とは口に出して言わないけど。

「なにが可笑しい」
「いえ、別に」

 ビクターの鋭い声が後ろから飛ぶ。
 リオは前を向いたまま答え、前方から走ってくるモノを見て驚き叫んだ。

「アン!どうしてここにっ?」
「アンっ!」

 アンがいる。城にいるはずのアンが、全力で走って来る。
 リオはギデオンの背中から飛び降りた。足に力が入らず、その場に膝をついたリオの胸の中へと、アンが飛び込んでくる。
 リオの身体が後ろによろける。だがビクターに支えられて、倒れはしなかった。

「アン!おまえっ、危険だから留守番してろって言っただろ?」

 アンは熱心にリオの顔を舐める。リオに怒られても知らないと言わんばかりに。
 ギデオンが片膝をつき、アンの頭を撫でながら口を開く。

「アンはおまえの後をついてきたのか?」
「違う。だって俺は、ゲイルさん達と馬を走らせて来たから。アンはアトラスに預けてきたんだ」
「ではアトラスが後からつれて来たのでは?」
「そうなのかな…」

 それにしてはアトラスの姿が見えないとリオが顔を上げると、アンが来た前方から、今度はロジェが現れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子からは逃げられない!

krm
BL
僕、ユーリは王家直属の魔法顧問補佐。 日々真面目に職務を全うしていた……はずなのに、どうしてこうなった!? すべては、王太子アルフレード様から「絶対に逃げられない」せい。 過剰なほどの支配欲を向けてくるアルフレード様は、僕が少しでも距離を取ろうとすると完璧な策略で逃走経路を封じてしまうのだ。 そんなある日、僕の手に謎の刻印が浮かび上がり、アルフレード様と協力して研究することに――!? それを機にますます距離を詰めてくるアルフレード様と、なんだかんだで彼を拒み切れない僕……。 逃げられない運命の中で巻き起こる、天才王太子×ツンデレ魔法顧問補佐のファンタジーラブコメ!

海に狂った学者が憧れに殉じるのを、幼馴染の溺愛騎士が許さない

鳥羽ミワ
BL
サフィラは、諸島国家テストゥードー共和国で生まれ育った古生物学者。没落貴族の彼は六歳下の弟を養いながら、日々海洋生物の研究に励んでいる。 幼馴染である騎士のクラヴィスは彼に思いを寄せていて、毎日しつこいくらいに求愛してくる。袖にし続けるサフィラだけど、実は彼もクラヴィスを憎からず思っているのだ。だけど、自分みたいな平凡な奴が彼にふさわしいなんて、到底思えない。つい素っ気なく突っぱねても、彼は変わらず迫ってきて…。 そんな日々の中、島に異変が訪れる。それはサフィラの実家の伝承にある、シーサーペント復活の予兆だった。 サフィラは危機を訴えるものの、「荒唐無稽な話だ」と退けられてしまう。ひとりでシーサーペントを止めるために海に出ようとしたけれど、クラヴィスも同行してくることになった。 旅の仲間に冒険者の大男・アウクシリアを加えて、三人で世界を救う旅に出る。それは神々の愛憎の渦の中へと飛び込むことだと、三人はまだ知らない。 ※カクヨム、エブリスタ、ムーンライトノベルズに掲載 ※「苦労人ツンデレ学者が世界を救うため海へ消えるのを幼馴染のエリート溺愛騎士が許してくれない」というタイトルでルビーファンタジーBL小説大賞へ応募したものを改稿して再投稿しています。話の流れ自体は変わっていません

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。 広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。 「は?」 「嫁に行って来い」 そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。 現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる! ……って、言ったら大袈裟かな? ※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...