狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 二人のやり取りを黙って見ていたビクターが、
 ギデオンの剣をさやから引き抜いて、じっと見つめて戻す。

「少し欠けてるな。あの魔獣の爪は硬い。あれで新たな武器が作れる」
「退治できたのだな?」
「ああ、魔獣がおまえに気を取られていたすきに、なんとかな。しかし人の前に滅多に姿を現さない魔獣がなぜ出てきたのか…。誰かが何かをしかけたな?」
「そうかもしれぬ…が真相はわからない。ところで皆は、それぞれの領地に戻ったのか?」
「いや、戻った者もいるが、ほとんどは残っておまえを捜索している」
「そうか。迷惑をかけてしまった」
「迷惑でも何でもないだろ。それだけおまえに人望があるってことだ。俺の場合は誰も残ってくれないだろうがな」
「…俺は残るぞ」
「意外だな。おまえは俺が嫌いだろうに」
「感情と人命は別物だろう」
「ふーん」

 リオはギデオンの背で揺られながら、二人の会話を聞く。お互い嫌い同士だと聞いていたけど、それほど仲が悪いわけではない?
 ぬめる岩場を慎重に下り沢を渡り、リオが降りてきた斜面を迂回して、人一人しか通れない細い道を進む。
 ちゃんとした道があったんだ、とリオが驚いていると、それまで黙々と進んでいたビクターが、唐突に振り向き口を開いた。

「ギデオン、おまえの部下に金髪の…いや、どちらかというとくすんだ茶色だな。おまえと歳が近い男がいただろう。この前、俺が使者として行った時には見かけなかったが。そいつは今どうしている?」

 ギデオンがビクターを見つめて「ケリーのことか」と低く言う。
「名前は知らんが」とビクターは前を向き、足を出して進んでいく。
 ギデオンも、ビクターの背中を見つめて前に進む。

「ケリーは罪を犯した。城から出して、今は故郷で大人しくしているはずだ」
「見張りはつけていないのか」
「つけてはいる…が、今回の討伐隊に引き抜いた者もいるから、手薄にはなっている」
「なるほどねぇ」
「ケリーがどうしたのだ」

 ビクターは前を向いたまま、何かを呟いている。「俺には関係ない」とか「でも気になる」とか。何のことだろうかとリオも気になって、ギデオンの背中から首を伸ばしてビクターを見る。

「ビクター」

 ギデオンが強く呼びかける。
 その声にビクターの足が止まる。そして振り返り、ギデオンの肩に手を乗せた。

「聞きたいか?」
「もったいぶるな」
「話してもいいけど、ケリーがどんな罪を犯したのか教えろよ」
「我が領内の話だ。おまえには関係ない」
「なら話さない」

「くっ…おまえっ」とギデオンが怒りも顕にビクターを睨んだ。
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