狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「どうした?辛いのか?おまえは鍛えている俺達に比べれば、まだまだ体力が足りぬ。なのになぜ、こんな遠くまで来た?…俺を心配して?」

 リオは小さく頷いて笑う。顔の筋肉を動かすのさえしんどくて、ちゃんと笑えたかどうかわからないけど。
 ギデオンの声が優しくて耳に心地いい。ずっと聞いていたい。会話もしたい。無茶をしてと怒りたい。すごく心配したと言いたい。そして俺も不眠になってしまったから、隣で寝て欲しいと伝えたい。
 でもリオが怒る前に、先に怒られた。

「バカ者め!城で待ってろと言ったのに。おそらく城に俺が行方不明だと知らせがいったのだな。ゲイルが来てるな?」

 リオは頷く代わりに目を伏せる。

「そうか。ゲイルがおまえを帯同たいどうさせるとは思えぬ。勝手について来たな?」

 もう一度、目を伏せる。
 ギデオンは大きく息を吐き出すと、リオの身体を包み込むように抱きしめた。

「…無茶をする。まさかゲイルと離れて一人で捜しに来たのではあるまいな?」

 ギデオンが顔を上げてリオの目を覗き込む。
 リオは、バツが悪そうに笑って「ごめん」と声に出さずに呟く。
「はーっ」とまた息を吐いて、ギデオンがリオの顔を見つめる。
 リオは、もっと怒られると息を止めて待っていたが、怒られはしなかった。
 ギデオンは大きな手でリオの頬を包み、親指で目の下を撫でた。

くまができてる。おまえも眠れなかったのか?」
「うん」
「おれもだ。また凶悪な顔に戻ってしまった」
「ふふっ」

 リオは口の中で返事をして、目を細めて笑う。
 ほんとだ。ギデオンの目の下に隈ができてる。出会った頃みたいだ。

「発熱しているが笑える元気があってよかった。だが心配だ。ゲイルの所へ戻るぞ」

 リオは頷き、ギデオンに支えてもらいながら立つ。足がガクガクと震えてるけど、歩けないことはない。ギデオンに手を貸してもらえれば…と顔を上げると、ギデオンがリオから離れ、背中を向けて膝をついた。

「ほら、乗れ。おまえ、歩けないだろう?」

 リオは手を横に振る。
 ギデオンこそ、大怪我をしていたのだ。傷は塞いだけど、どんな後遺症が出るかわからない。だから自分で歩くよと足を踏み出した瞬間、濡れた地面に足を滑らせ、ギデオンに抱きとめられた。

「危ない!頭を打ったらどうする。ほら、遠慮はいらぬ。素直に背中に乗れ」

 ギデオンを助けに来たのに情けないと涙ぐみ、リオは思わず目の前の胸に顔を埋める。
 ギデオンはリオを突き放すことはせず、「どうした」と背中を撫でてくれる。
 ずっとこうしていたい。ギデオンの傍は心地がいい。幸せってこういうことなのかな。ねぇ母さん…。

「お、無事だったか。悪運の強いヤツめ。で、助けに来た部下を虐めてるのか?」
「違う。だがよい所に来た。ゲイルが来てるだろう。呼んできてくれ」
「はあ?なんで俺が」

 いきなり低い声が響いて、リオは身体を揺らす。ギデオンの胸から顔を上げて声が聞こえた方を見ると、ビクターが腕を組んで立っていた。
 
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