狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 ギギ…と音が聞こえるような動きで、二人同時に振り返ると、全裸のビクターが立っていた。

「うわっ!」
「ぎゃああっ」
「うるせぇ!」

 ビクターに一喝いっかつされ、リオとアトラスは手で口を押さえる。
 ビクターは声も身体も何もかもデカくて怖い。それよりも、どうしてここにいるのか。
 リオはアトラスを見て、リオ達から離れて身体を洗い始めたビクターを見る。

「あの…どうしてここに?客用の浴場があるはずですが?」

 ビクターはたっぷりと泡立てた石鹸で、全身を丁寧に洗いながら口を開く。

「おまえがここに向かってる姿を見かけたから、俺も来た」
「え?アトラスをつけてきたの?」
「違う!金髪のおまえだっ」
「俺?」

 リオはアトラスと顔を見合せ、困った顔をした。
 まずいな…興味をもたれてしまった。絶対に会いたくなかったのに、こんな逃げも隠れもできない場所で会っちゃうし。
 アトラスが頷き、リオの代わりに聞く。

「リオに何か用ですか?リオはギデオン様付きの使用人なので、他の方の頼みは聞けないですよ」
「ちっ…」
「ひいっ」

 舌打ちした!今、舌打ちしたよね?うわぁ、嫌な人だ。心底関わりたくない人だ。
 アトラスは一瞬おびえたが、再び聞く。

「そ、それで、なぜついて来たのですか?俺はこのことをギデオン様に報告しなければなりません。あなたが王城からの使者であっても、失礼なことをすれば許しません」
「アトラス…」

 普段は頼りないけど、やっぱりいざとなれば頼りになる。さすがギデオン付きの騎士だ。
 ビクターは頭から湯をかぶると、ギロリとこちらを睨んだ。
 リオは肩を揺らせて身を引いたが、アトラスは前に出てリオを背中に隠す。
 思いもよらなかったアトラスの凛々しい姿に、リオは涙ぐみながら「アトラス、大丈夫?」と口にする。
 アトラスは「大丈夫だよ」と頷き、ビクターから目を離さない。
 どちらも丸腰だから刃傷沙汰にはならないだろうけど、殴り合いになったらどうしようと、リオは不安になる。
 リオは人を殴ったことはない。危険なことは魔法で上手くかわしてきたし、そもそも争うことが苦手だ。
 殴り合いになったらアトラスが大怪我をする。どうしようと不安に思っていると、アトラスが立ち上がったのでリオも立った。
 ビクターも立ち上がると、こちらに来て湯に入りアトラスと向き合う。

「そこの金髪赤目と話がしたかっただけだ」
「そうですか。しかしそれはギデオン様から許可をもらってからにして下さい」
「は?使用人と話すのに許可がいるのか?」
「リオは普通の使用人と違います。先ほども言いましたが、ギデオン様付き…いや、ギデオン様専属の使用人です。ですので、失礼のないよう、お願いします」
「専属ってなんだ?意味がわからぬ」
「ここの主はギデオン様です。くれぐれもギデオン様の意に沿わぬことはしないで下さい。じゃあリオ、そろそろ出ようか。のぼてしまうからね」
「う…うん」

 振り向いたアトラスは、いつもの明るい笑顔と口調だ。
 アトラスの凛々しい姿に感動していたリオは、戸惑いながら頷いて、アトラスに腕を引かれながら湯から出る。
 「待て」と伸ばしたビクターの手が腕に触れたが、慌てて腕を引き「失礼します」と走る勢いで浴場の外に出た。
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