狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「心配?」
「だってさぁ、アトラスが使者の…ビクターさん?がギデオンのこと嫌ってるって言うから…ギデオンにひどいこと言わないか心配だったんだよ」
「なるほど。確かにビクターは俺を嫌ってるな。だが俺もあいつが嫌いだ。それに嫌味を言われても気にはせぬ。人に嫌味を言う者は、心が弱いから言うのだ。そのような者の言動を、一々いちいち気には止めぬ」
「へぇ、そんな風に考えるんだな。勉強になるよ」
「前から思っていたが、おまえは頭がいいな。様々なことを吸収して覚えも早い。リオ、俺を心配してくれてありがとう」
「え…あ…うん」

 なんだよその顔…とリオは顔を伏せる。
 ぱっと輝くような笑顔ではなく、優しく微笑んだだけなのに、その顔があまりにも優しくて、あまりにも甘い目で見られて照れてしまう。
 うん、この城に来てからの俺、本当におかしい。ドキドキしたり照れたりして、なんだろうなぁ。
 その時、リオの腹が「ぐぅ」と鳴った。

「ははっ、腹が空いたのか。昼餉を運ばせよう」
「俺っ、取りに行ってくる!ギデオンはここで待っててっ」
「待て…」

 止めようとしたギデオンを見もせずに、リオは早足で部屋を出た。
 リオの後をアンが走ってついてくる。
 リオはアンを抱き上げると、深くため息をついた。

「ギデオンに優しくされると、どうすればいいかわからなくなる…。怖い顔で接してくれる方がいいよ」
「クウーン」

 アンが意味がわからないと言うように小さく鳴いて、リオの腕の中で脱力する。そして目を閉じ気持ちよさそうに眠り始める。

「遊び疲れたんだな。ふふっ、おまえはまだまだ子供だなぁ」

 アンの頭を撫でて、顔を上げてドキリとする。
 廊下の窓の外に、ビクターの姿が見える。一人だ。たぶん他の三人は部屋で休んでいるのだろう。ビクターだけが、暇なのかなんなのか、城の中をウロウロしている。
 リオは目が合わないよう顔を背け、足を速める。厨房へと急いでいると、聞き覚えのある声が聞こえて、再び窓の外を見た。

「あー…」

 アトラスがビクターに捕まっている。
 先ほどの声は、アトラスの悲鳴だったのだ。
 あの人、暇そうにしてるもんな…アトラスがんばれ。
 リオが心の中でアトラスを応援していると、日頃はのんびりとしているアトラスが、機敏な動きでこちらを見た。そしてリオに気づき情けない顔で手を伸ばす。
 リオは「ごめんっ」と謝り走って逃げた。
 アトラスには悪いけど、ビクターとは会いたくない。ギデオンにも気をつけるように言われたばかりだし。
 少々息を切らして厨房に入ったリオは、二人分と一匹の昼餉を部屋に運ぶよう頼んで、違うルートで部屋に戻った。
 
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