狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 しばらくして使者が到着したことが告げられ、扉が開く重そうな音がした。床を踏む複数のブーツの音が聞こえ、リオの視界に四人の騎士が現れる。
 先ほど見た目立つ騎士が、ギデオンの前で止まり、軽く頭を下げた。

「王からの手紙を届けにまいった。使者のビスターと申す」
「領主のギデオンだ。遠路はるばる、ご苦労である」
「こちらが王からの書簡しょかんである」

 ビスターが差し出した箱を、ロジェが受け取りゲイルに渡す。
 それを横目で見て、ギデオンが「確かに受け取った」と、常より低い声で言う。
 これで使者の役目は終わりかな、一瞬だったなとリオがビスターを見ると、厳しい目つきでギデオンを見ている。
 少し見つめた後に、再び口を開いた。

「王からの命で、すぐに返事をもらいたい」
「そうか。内容によっては時間をもらうが、よいか?」
「わかった。できれば二、三日中には頼む」
「承知した。では使者どの、部屋まで案内させよう。ゆっくりと休まれよ」
「ありがたく。そうさせてもらおう」

 なんとなく微妙な気配を感じたが、特に問題なく会話が進み、ビスターと三人の騎士が出口へと向かう。
 リオは、息を詰めて見ていたが、何事もなく終わって安堵の息を吐いていると、急にビスターが足を止めてギデオンに振り返った。

「ところでギデオン殿」
「…なんだ」
「久しぶりなのだから、もっと愛想良くしてくれないか」
「なぜ?ビスター殿こそ不機嫌そうに見えるが?」
「俺は元々こういう顔だ」
「俺もだ」
「まあそうだったな。だが…少し変わったか?顔色がよくなった。顔つきも柔らかくなった。それに目の下の隈がなくなってるではないか。どうしたのだ?」
「よく眠れて体調がいいだけだ」
「ふーん」
「もういいだろ。早く部屋へ行け。俺は忙しい」
「わかったよ。夕餉はもちろん、招待してくれるんだよな?」
「……ああ」
「では後ほど」

 ビスターがククッと笑い、ようやく出口へと向かう。その時、いきなり顔を上げたので、リオは驚いた。目が合った気がした。だけどビスターは、ガラスがはめ込まれた窓を見て「美しいな」とだけ呟き、部屋を出ていった。
 リオが息を吐き出すと、隣でアトラスも息を吐きリオと目を合わす。

「驚いた…気づいたのかと思った」
「俺も。でも、王城の騎士なら、周りに敏感じゃないの?俺たちが覗いてたこと、気づいてもおかしくないかも」
「そうだけど。だけど俺は完璧に気配を消してたよ」

 アトラスが自信満々に言う。
 リオは黙ってすっ…と目を細める。
 消してたって?本当に?そんな感じはしなかったけど?
 アトラスは自己肯定感が強いなと思う。でもそれは、とてもいいことだとわかっている。リオもそうありたい。他の誰もが持っていない力を持っているのだから、もっと自信を持っていい。だけどその力のせいで、仲間がバラバラになった。母さんが病になって死んだ。魔法は便利だけど、不便でもある。本当の自分をさらけ出せない。隠し通さなければならない。そのことが、常に自分を苦しめている。
 
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