狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 にやにやと気持ち悪い顔をやめないアトラスをかして案内してもらい、リオは大広間が覗ける場所に来た。
 大広間は二階まで吹き抜けになっており、とても広く開放感がある。二階部分にはいくつかの窓があり、様々な色のガラスを使って模様が作られているために、覗いたとしてもバレにくくなっている。
 でもこちらからも見えにくいから全然覗けないじゃんとアトラスを見て、リオは少し不満気に問う。

「ここから覗くの?」
「ここからでもいいけど、見えにくいよ。だからこっち」

 やっぱりと頷きアトラスに手招きされて近づくと、そこには壁に卵くらいの穴が数個、空いていた。

「これは空調の穴なんだけどね、覗くには最適だろ?まあ覗いた人は、今まで誰もいないけど」
「…だろうね。無理言ってごめんな」
「大丈夫だ。俺もワクワクしてるからっ」

 膝をつきながら、リオは苦笑する。
 同じように膝をつくアトラスの性格が、本当に軽すぎると思う。
 騎士とはもっと厳格ではないのか?庶民には横柄おうへいで偉そうで野蛮で。ずっとそう思ってきたけど、ギデオンと出会って、アトラスや他の人達と接するようになって、リオの中で騎士に対する偏見が変わってきている。
 今まで周りからの話を聞いただけで、ずっとそう思い込んでいた。それでは本当のことが見えない。やはり自分自身で見て聞かなければ、真実はわからないものなのだ。
 黙ってしまったリオが緊張してると思ったのか、アトラスが「バレないよ、大丈夫」とリオの肩に手を乗せた。
 リオは「うん」と頷き穴を覗く。
 ここからは部屋の入口は見えないが、奥の一段高くなった場所に座っているギデオンと、ギデオンの横に立って控えているゲイルはよく見える。
 一段下がった場所には、ロジェと三人の騎士が立っている。
 リオは心配になり、アトラスの耳に顔を寄せてこそこそと聞く。

「なあ、アトラスは本当にあそこにいなくて良かったのかよ…」
「いいよ。だって俺、呼ばれてないもん」
「本当に?」
「本当だよ。それにいつもこの時刻は鍛錬してるんだけど、リオを見かけたから、腹が痛いって言って抜けてきたんだ。だから皆、俺が部屋で休んでると思ってるから大丈夫だよ」
「アトラス…」

 それ、サボりって言うんだよ。ちゃんと真面目に騎士道に励みなよ…と心の中で思った声が漏れて、アトラスに聞かれた。
 アトラスは、いたずらがバレた子供のように笑う。

「わかったよ、この後にちゃんとやる」
「まあ俺もサボってるから責めれないんだけど」
「だよな!」

 思いのほか声が大きくなったアトラスの口を、リオは慌てて手で塞ぐ。
 下を覗くと、誰も気づいてないようで安堵の息を吐く。
 アトラスが声に出さずに「ごめん」と謝り、穴に張り付いた。
 リオは呆れたようにアトラスを見ながら、調子がいい所もあるけど、騎士らしくないアトラスが好きだなと、くすりと笑った。
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