狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「冷たっ…。ギデオンもちゃんと拭きなよ。まだ濡れてるよ」
「俺はいい。俺よりもおまえだ」

 ギデオンがリオの髪を拭き始める。
 アトラスは走り回るアンを追いかけ回すのに必死で、リオを放ったらかしにしたままだ。
 それを注意することもなく、ギデオンは布でリオの髪を丁寧に挟む。
 さすがに領主様にしてもらうのは申し訳ないと思い、リオは「自分でやるよ」と布を掴んだ。

「いい、俺がやる。気にするな。おまえは腕を怪我してるだろう」
「まあそうだけど。でも動かせるよ」
「ダメだ。すぐに済むから任せろ」
「わかったよ。ありがとう」
「ああ」

 リオは口を閉じ、ギデオンに身を任せる。
 アンに話しかけているアトラスの声を聞きながら、リオは目を閉じた。
 目を閉じていたら眠くなってきた。朝が早かったし遠出をしたしアンと遊んだし魔法も使ったから、かなり疲れているのだ。
「眠いか」というギデオンの声に、リオは慌てて目を開ける。

「あ、ごめん。大丈夫だよ」
「眠ければ眠っていいぞ。出立の時に起こしてやる」
「寝ないよ。まだ服が濡れてるから気持ち悪くて寝れない」
「そうか。ならば、もっと火の近くに寄れ」
「うん。ギデオンもよく拭きなよ」
「ああ。しかしリオの髪は濡れても綺麗だな。より艶が出ているようだ」

 ギデオンが自身の頭を片手で拭きながら、もう片方の手でリオの髪に触れる。
 リオは毛先を摘んで小さく首を傾ける。

「そうかな。アトラスと変わりないと思うけど」
「いや、アトラスよりも綺麗だ」
「はあ、それはどうも」

 昔からよく髪のことでは褒められて慣れているので、リオは適当に相槌を打つ。
 こちらの会話が聞こえていたのか、アンの身体を拭き終わったアトラスが、「ちょっと!」とリオの隣に来た。

「俺の髪もそこそこ褒められますけど。まあリオの方が綺麗なのは確かだけど」
「俺はアトラスの髪、好きだな」
「リオ…ありがとう!本当にいい子だよね。俺、リオともっと仲良くなりたい」
「うん俺も」

 アトラスがリオの両手を握ってニコニコと笑う。
 子ってなんだよ同じ歳くらいだろと心の中でつっこみながらリオも笑い返していると、ギデオンに手を離された。

「リオは腕を怪我している。無駄に触れるな」
「あ、そうでした。リオ、ごめんね」
「大丈夫だよ。それよりもさ…ちょっと横になってもいい?しんどくなってきた…」
「なにっ?」
「ええっ!」

 大丈夫だと思っていたけど、さすがにあの高さの崖から落ちて無事では済まなかったのか。
 リオは気分が悪くなり、その場にごろりと寝転んだ。



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