狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「嫌…なのか?」
「嫌だよ。なんだよ、仕事って夜伽?ギデオンは男色なのか?男色を差別はしないけど、俺は嫌だから違う人を雇ってくれ。じゃあな」

 リオは早口でまくしたてると、素早く立ち上がりギデオンから離れようとした。しかし離れるよりも早く腕を引かれて腰を落とす。

「待て。話を聞け」
「離せよ!話を聞いたじゃん。それで一緒に寝ろって言うから無理だって言ってるんじゃん!」

 尚も立ち上がろうとするリオの肩が強い力で押さえつけられる。
 嫌だ、このまま強姦されるくらいなら、魔法を使って逃げ…。

「誤解だ。リオをどうこうしようとは思っていない。ただ、隣で寝て欲しいだけだ」
「……はい?どういうこと?」

 ギデオンはすこぶる情けない顔になり、グラスの酒を一気に飲み干して大きく息を吐いた。そして俯きながら独り言のようにブツブツと呟き始める。

「…俺はな、眠れないんだ。仮眠はできるが、深く眠れない」
「…なんで?」
「幼少の頃、眠っている時に襲われて殺されかけたことがある。すぐに護衛の者に助けられたが、その日から眠れなくなってしまった」
「はあ…それは大変だね」

 身分の高い人は大変だと、リオは他人事ひとごとながら同情する。でもそれとリオが一緒に寝ることに何の関係があるのか。
 ギデオンが、俯かせていた顔をリオに向けた。端正な顔にくっきりと浮かぶ隈を見て、ああ、あれは長年の睡眠不足によるものだったのかとリオは納得し同情する。

「俺は今まで眠れるようになる為に、あらゆることをしてきた。よく効くという薬を飲み、香をき、心地の良い寝具を使い、女を抱いてもみた。だが眠れなかった」
「うん…眠れないのは辛いねぇ」
「わかってくれるか」
「いやまあ…」

 わかんないけど。俺はどこでもどんな状態でも眠れるし。
 リオは口をつぐんで次の言葉を待つ。

「そんな俺が、リオと同じベッドで寝た時には、深く眠れたのだ。…とても驚いた。あんなに安眠できたのは、いつ以来だろうか」
「はあ?うそだろ…」
「本当だ。だからリオを捜した。俺自身も確かめたかったのだ。ただの偶然か、それとも必然なのか。そして二度目も深く眠れた。朝目覚めて、あんなに頭の中がスッキリとしたことはない。だからリオ、頼む。おまえの仕事は、俺と一緒に寝ることだ」
「えー…マジかよ。…なあ、本当に寝るだけだよな?変なことはしないよな?」
「誓ってしない」

 リオは腕を組んで考える。
 ギデオンは清潔でかっこよくて品があって、女の人だったら喜んで共に寝るだろう。でも俺は男だし、できれば一人でゆっくりと眠りたい。一緒に寝るとしてもアンとだったら大歓迎なんだけどな。
 悩みながら顔を上げるとギデオンの隈が目に入った。寝不足の証の隈。よく見るとひどく疲れた顔をしている。寝不足が辛いことはわかる。夜更かしして翌日しんどい思いをしたことがあるから。それが毎日なんだよな…。眠れないと身体が休まらないし疲れも取れない。日中もぼんやりとして辛いよな…。
 リオは優しい性格だ。困っている人がいれば助けたくなる。だからギデオンの力になるならやむを得ないと思ってしまった。
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