狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 何段もの階段を登った先の扉を抜けると、小さな部屋があり、正面の窓から見える景色が最高だった。街が一望でき更にその奥の平野まで見渡すことができる。
「わあ!」と感嘆の声をあげるリオの隣に自然とケリーが並ぶ。

「いい眺めだろう。ここは誰でも立ち入れる場所ではない。それなのに案内してやれと言うくらいには、ギデオン様はリオのことを気に入ってるんだな」
「えっ!」

 リオは信じられないという顔で、ケリーを見る。
 リオの大きな声に驚いたのか、ケリーも目を大きくしてリオを見た。

「なんだ?」
「ギデオンが俺を気に入ってるって?どこをどう見てそう思うんだ?普通に素っ気ない態度だけど」
「そんなことはないだろう。先ほどのように人の頭を撫でるなど、ギデオン様がされているところを見たことがない」
「あれは…俺を子供扱いしてるんだよ。実年齢より幼く思ってたみたいだし」
「リオは何歳なんだ?」

 いつの間にかケリーの指先がリオの髪に触れていた。
 それに気づいた瞬間、リオの全身に鳥肌が立つ。
 怖い。気持ち悪い。やっぱりこの人は変だ。なんで俺に触れてくるんだ?好意を抱いてる感じじゃない。なんだろう?なんて言えばいいのか…。
 リオが考え込み黙っていると、髪の毛に指を差し込まれたので、ゾッとしてケリーから離れた。
 ケリーが驚いたように手を上げ、リオに微笑む。

「ああ、ごめん。嫌だった?」
「まあ…。俺、汗もかいてるし」
「そう?大丈夫だよ」

 アンタが大丈夫でも俺が大丈夫じゃねぇよ!
 そう心の中で悪態を吐き、リオは扉に近寄りながら口を開く。

「さっきの話。俺は冬になると成人だよ」
「そうなのか?驚いた…。確かに実年齢よりかなり幼く見えるな」
「別に普通だよ。それよりも早く他の場所を見に行きたい」

 素早く部屋を出て階段に向かいながらリオが言う。ケリーから離れたいのに、ケリーがリオの真後ろに来る。
 とりあえず触られないように、リオは背後を警戒しながら階段を降りる。
 背後から、微かに笑う気配を感じる。

「もういいのか?もう少し眺めていてもいいのだぞ」
「いい。またゆっくり来る」

 アンタとじゃなく一人でな。
 ゲイルも第一印象で何を考えてるのかわからなかったが、ケリーはもっとわからない。
 だけど最もわからないのは、やっぱりギデオンだと思って、ますますこの城から出たい気持ちを強くする。
「もう少しリオと眺めていたかったな」とケリーが呟いているが、リオは飛び降りる勢いで階段を降りていく。
 リオは村人達に、母親に、常に警戒心を持つよう教えられている。魔法が使えることがバレたら、捕まるからだ。捕まって、どんな扱いを受けるかわからないからだ。
 例えどんなに良い人だろうと、警戒を怠らないよう、教えられている。
 そして今、ケリーに対して、最大限の警戒心が芽生えた。彼は要注意人物だ。ただの好意でリオに触れてくるなら、まだいい。好意ではなく、リオに興味を持つ理由はなんだ?魔法が使えることは知られていないはず。ならばなんだ?

 城の中の他の場所を案内してもらう間中、リオはずっと考えていた。
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