狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 リオが頭を上げると、ゲイルはピクリとも表情を変えずに、リオからギデオンへと視線を移す。

「お疲れでございましょう。荷物は後でお運びします。軽食をお食べになりますか?」
「いやいい。おまえに話がある」
「かしこまりました」

 ギデオンはゲイルに頷き、後ろを向く。

「ケリー、リオに城の中を案内してやってくれ。その後に、俺の部屋に連れてくるように」
「はい。じゃあリオ、行こうか」

 ケリーがリオの肩を押して中へと入る。
 ギデオンの横を通り過ぎる時に、リオが不安げに見上げると、大きな手で頭を撫でられた。

「街が一望できる見晴らしの良い場所がある。案内してもらえ」
「…うん」

 リオは、ギデオンに撫でられた頭に手を乗せて頷き、ケリーに急かされるようにして中へと進む。
 ギデオンに撫でられた頭と、胸の中が暖かい。むずむずとして変な気分だ。なんだろう。ずっと一人で過ごしてきたから、人の温もりに戸惑ってるのかなぁ。
 肩越しに後ろを見ると、ギデオンとゲイルが何かを話していた。
 リオの視線に気づいたゲイルと目が合い、心臓が跳ねる。
 怖い。やっぱりゲイルの目が怖い。狼領主が怖いから、仕える人達も怖いの?と昨日思ったことと反対のことを考える。
 リオはぶるると震えて隣を歩くケリーを見る。
 見られていることに気づいたケリーは、「どうした?」と穏やかに笑って首を傾けた。
 昨日、ケリーのことも怖いと思ったけど、気のせいかもしれない。こんなに優しく接してくれるのに、失礼なことを思っちゃったな。
 リオは微かに首を振ると、「この城、大きいね」と高い天井を見上げた。
 ケリーも同じように天井を見上げ、「そうだな」と顔を戻す。

「王都にある王城の次に大きいと思う。ギデオン様の血筋を辿たどれば、元は王族の出だからな」
「ふーん。でもそういう出自の領主ってたくさんいるじゃん。これだけ城が大きいし、ここに来るまでに通ってきた街しか知らないけど栄えてたし、きっとギデオンも前の領主も有能なんだな」
「よくわかってるじゃないか。そうだ。ギデオン様は素晴らしい。…のだが、少々厳しい方だから」
「え?見た目だけで狼領主って呼ばれてるんじゃなくて?本当に怖いの?」
「ああ、本当に怖くて厳しい。間違ったことは絶対にお許しにならない。だからリオ、おまえも気をつけるんだぞ。まあ…騎士ではないリオに、そこまで厳しくはしないと思うが」
「えー…」

 リオは長い廊下の先を見つめて、絶望の溜息をついた。
 辞めよう。絶対に辞めさせてもらおう。俺は何の役にも立たないと説明して、ギデオンから解雇通告をしてもらおう。そして早々にここを出て旅を続けるんだ。
 そう固く決意したリオの気持ちを知らないケリーが、「先にギデオン様が仰っていた場所に行こう」と階段を登り始めた。

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