狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 リオは何度か目を覚ました。その度に自分を覗き込んでくる顔が違っていた。
 最初はアトラス。「大丈夫っ?」と焦った様子で聞かれたけど、返事をする前に再びリオは目を閉じた。
 次に目覚めた時には、ロジェがいた。ロジェには「水を飲むか?」と聞かれたが、頷くのも怠く、すぐに目を閉じた。
 その次はギデオンだった。髪に何かが触れているように感じて、顔を動かし目を開けると、ギデオンが手を引くところだった。

「…なに…」
「いや、気分はどうだ?」
「うん…大丈夫みたい…。俺、どれくらい眠ってた?」
「半日だ。今は夜だ」
「半日…」

 いつもなら治るまでに一日かかるのに、ずいぶんと早い。
 リオは大きく息を吐き出すと、鼻をすんと動かし、腐った花のような匂いに気づいてシーツを鼻まで引っ張り上げた。

「なあ、変な匂いがするんだけど」
「変な匂い?ああ、これか」

 少し首を傾けた後に、ギデオンが側の机の上の小さなグラスを右手で掴む。そしてリオの顔の前に持ってきて「口を開けろ」と、有無を言わさぬ強い口調で言う。
 反射的にリオはイラッとした。実はリオは短気だ。ギデオンと関わるようになって忘れていたけど、騎士のこういう偉そうな所が嫌いなんだと、露骨にグラスから顔を背ける。

「リオ」
「嫌だね。看病をしてくれたことは感謝してる。ありがとう。だけどさ、そういう風に偉そうに命令をされるの、俺はすごく嫌いだ。この先ギデオンの家に行って、そういう扱いをされるなら、俺は行かない。契約は無しだ」

 リオはひと息に言うと、肩で息をしながらギデオンに背を向けた。
 雇い主と使用人の間柄だから、命令を聞くものだとわかっている。だけど意味が分からないのに「やれ」と強く言われることは、納得できない。
 しばらく沈黙が続く。もしかしてギデオンを怒らせたかもしれない。生意気なことを言いすぎたかもしれない。でも自分の気持ちを抑えてまで、ギデオンの元で働かせてもらう気はない。

「すまなかった」
「へあ?」

 沈黙を破ったのはギデオンだった。
 いきなりの謝罪に、リオは変な声を出して振り返る。リオの目に、艶やかな黒髪が飛び込んでくる。
 なんと、ギデオンは頭を下げていたのだ。

「ちょっちょっ…!なにしてんの?」
「早く帰りたいばかりに、気が急いてきつい物言いをしてしまった。すまない」
「そんなに早く帰りたかったの?仕事が溜まってるとか?ごめん…俺のせい…」
「リオが謝ることは何もない。それに仕事は大丈夫だ。ただ俺が、リオを早く連れ帰りたかっただけだ」
「え、なんで?」

 意味がわからない。そんなに早く俺に頼みたいことってなんだ?
 リオは上半身を起こすと、腕を組んで男の形の良いつむじを見つめた。
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