狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 三人の騎士の名は、ケニー、ロジェ、アトラスというらしい。一人ずつ丁寧にリオに向かって挨拶をしてくれた。
 リオも三人それぞれに名を名乗って、昨夜の礼を述べる。

「昨夜は助けてくれてありがとうございます」
「いえ、俺達は何もしてません。君を助けたのはギデオン様です」

 ケリーが代表して、そう話す。
 リオは、庶民の自分に対して丁寧な言葉使いをするケリーに、とても驚いた。そして申し訳なくも思う。だから「俺はただの使用人だし普通に喋ってもらいたい」と頼んだ。
 ケリーはギデオンに「どういたしますか?」と聞く。
 ギデオンは、ちらりとリオを見て、次にケリー、ロジェ、アトラスを順番に見て頷く。

「リオがそうしてくれと言うなら、それでいい」
「かしこまりました」

 三人が右手を胸に当て、目を伏せる。そして再びケリーが「リオ、店に挨拶に行くか?」と聞いてきた。
 挨拶とは、昨夜まで働いていた飲食店のことだ。
 リオは深く頷くと、ギデオンを見上げた。

「行ってきてもいい?」
「構わぬ。俺の許可はいらない」

 ギデオンが不思議そうな顔をしている。見た目はいつもと変わらない冷たい表情だけど、リオは、だんだんとわかってきた。顔の筋肉の些細な動きで、ギデオンの喜怒哀楽がわかってきたのだ。きっと今は、なぜ聞くのだと困惑している。

「だってさ、ギデオンは俺の主じゃん。今までのように勝手な行動はできないよ」
「俺は、そこまで束縛するつもりはない。仕事の最中だけ、命令を聞いてほしいだけだ」
「そう?じゃあ少しだけ待っててくれる?挨拶してすぐに戻ってくるよ」
「ああ。危なくなったら俺達を呼べ」
「朝だから大丈夫だと思うけど。わかったよ」

 見た目の割に心配性だなと紫の瞳を見つめ、リオは店に足を向けた。
 店が開くには早い時間だけど、店内の掃除と仕込みをするために、店主はもう店に出てきてるはずだ。
 リオが静かに扉を押すと、扉の上部に取り付けられた鐘がカランカランと鳴る。その音に気づいて、店主が店の奥から顔を出した。

「すいません、まだ開店じゃな…リオ!話は聞いてるよ。大丈夫なのか?」

 細く開けた扉の隙間から中に入ると、再びカランと鳴って扉が閉まる。リオは一歩進んで、アンが落ちないように鞄を抱きしめて深く頭を下げた。

「大丈夫です。ご迷惑をおかけしてごめんなさい」
「いやいや、リオは何も悪くないよ。こちらこそすまない。嫌な客の相手をさせてしまったね」
「とんでもないっ。ここで働かせてもらって感謝してる。お世話になりました」
「また旅に出るのかい?」

 リオは少し首を傾けて、「はい」と頷いた。
 ギデオンに雇われたことは言わなくてもいいか。どうせまたすぐに旅を始めるつもりだし。
 店長は「気をつけるんだよ。残りの賃金は説明に来た騎士に渡してあるから」と言って、リオに手を差し出した。
 リオは、その手を握ると、もう一度お世話になった礼を言って店を後にした。
 
 
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