狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 リオの話を聞き終えたギデオンが、「ああ、それは」と言いかけて口をつぐんだ。そしてふい…とリオから目をそらす。
 怪しい…とても怪しい。リオは身を乗り出して、ギデオンの顔をのぞき込む。

「ねぇ」
「なんだ」
「なにか知ってるだろ?」
「知らん」
「いや、絶対知ってるっていう顔だ!なんで俺は捕まりそうになってたんだよ?」

 ギデオンは、口を固く引き結び、リオをじっと目つめた。しかしすぐに息を吐き出すと、静かに話し始めた。

「俺が…おまえを捜してたんだ」
「はあ?」
「リオの人相を伝えて、人を使って捜させた」「おいおいおい!あんたのせいで俺はコソコソ逃げ回る羽目になったのかっ?」
「だからなぜ逃げるのだ。何も悪いことをしていないのだから、素直に出てくればよかったではないか」

 リオはキュッと唇を結んで、ギデオンを睨む。
 お尋ね者になってる理由がわからないのに、ホイホイと出ていくわけがないだろう。それに、俺は普通の人とは違う。魔法が使える一族出身だ。魔法が使えることがバレたのかと、怖かったんだからな!
 ギデオンは不思議そうに小さく首を傾けて、美しい紫の目をリオに向ける。
 その目に一瞬見とれたリオだったが、言いたいことを続けて吐き出した。

「庶民は冤罪えんざいで捕まることが、よくあるんだぞ」
「俺はそんなことはしない」
「それに捜してるのがギデオンだとわかってたら、名乗り出たかもしんねぇけど、訳がわからなかったんだから逃げるだろ」
「それはそうか…。怖い思いをさせて悪かった」

 ギデオンが、リオに向かって小さく頭を下げた。
 リオは驚き、大きく開いた目で、つややかな黒髪を見つめる。まだ数回会って話しただけだけど、ギデオンの人となりがわかってきた。怖い見た目だけど、優しくて誠実な性格をしている、と思う。騎士なのに庶民の俺に頭を下げてるし。
 リオは小さく息を吐き出すと同時に笑った。

「ふっ…もういいよ。コソコソするのは嫌だったけど、来たかった州に来れたし。それにギデオンには危ないところを助けてもらったし。本当にありがとう」
「うむ、間に合ってよかった。リオはもっと気をつけた方がいい。今までよく無事だったな」
「今回は薬をもられたから仕方ないよ。今までもこれからも、自分の身は自分で守れる」
「…心配だな」
「大丈夫だって」

 難しい顔で腕を組みリオを見つめていたギデオンが、何かに気づいて顔を上げた。

「それは何だ?」
「どれ?」
「その首輪だ。…誰かにもらったのか?」
「ああ…これ?」

 ギデオンの声が、わずかに低くなった。リオはそれには気づかずに、首輪に触れて無邪気に答える。

「いいだろ?自分で買ったんだ。ほら、アンとお揃い」
「アン?その犬のことか」

 ギデオンがアンに目を向ける。そしてアンの紫の首輪を見て、かすかに目を細める。

「ほう…良い色ではないか。その髪色といい、おまえの好みか?」
「え?…まあそう…いやっ、たまたまっ!目に止まっただけで…っ」
「なるほど」

 ギデオンの見た目は、いつも通りに冷たくて無表情だ。だけどリオには、すごく嬉しそうに見えた。なぜ嬉しそうなのかは全くわからなかったけれど。


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