狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

文字の大きさ
上 下
25 / 241

25

しおりを挟む
 卑劣な騎士の言葉を聞きながら、リオは指が痛いことに気づいた。そういえば怒りの余り、無意識に地面をいていた。指が動く。魔法が使える。どうする?
 リオはそっと辺りの様子をうかがう。近くに葉が生い茂った大きな木がある。葉っぱで目くらましをかけるか…。
 小さく息を吐き、騎士に気づかれぬよう指を動かそうとしたその時、「待て」と背後から低い声がした。
 リオは動きを止め、騎士二人が振り向く。

「なんだおまえ?俺たちは忙しいんだ」
「誘拐か強姦か知らんが、その者を返してもらおう」
「は?これは俺のツレなんだが?」
「ほう?そうなのかリオ」

 聞き覚えのある声に、リオもゆっくりと振り向いた。そして緩慢な動きで首を横に振る。

「もしや薬を飲まされたのか?顔色が悪い」

 今度は首を縦に振る。
 黒いマントにフードをかぶった背の高い男が、「おいで」とリオに向かって手を差し出した。
 しかしリオが手を出すよりも早く、騎士達が男に殴りかかる。男はするりと攻撃をかわし、二人の騎士の背中を強く蹴った。

「くそっ!何しやがるっ」
「品がない。この州におまえ達はいらぬ。おい」

 男が軽く手を上げる。すると闇の中から似たようなマントとフードをかぶった三人が出てきて、二人の騎士を素早く縄で縛り上げた。二人の騎士は喚こうとするけど、猿ぐつわまでされて声が出せない。
 三人は、男に小さく頭を下げ、騎士達を連れて闇の中へ消え去った。
 リオは安堵した。心底安堵して、意識が飛びそうになる。

「おい、大丈夫…じゃないな。リオ、おまえの宿はどこだ?」
「…やっぱり、ギデオン…だ。ありがと」
「礼は後だ。宿は?」

 ギデオンが簡潔に聞く。
 リオは何とか意識を保ちながら、角を曲った所の店の、さらにその奥の小さな家だと、途切れ途切れに告げた。
 そしてギデオンが「わかった」と頷いたのを確認すると、ほっと息を吐き目を閉じた。


 リオは夢を見ていた。
 母さんがいるから、夢だとわかった。
 一族が暮らす、小さな村。父さんは物心つく前には亡くなっていて、顔もぼんやりとしか覚えていない。母さんは基本は優しかったけど、魔法の使い方を教える時だけは、厳しかった。魔法は、悪いことにも使えるからだ。魔法を使えば楽だけど、余程のことがない限り使わないよう、決して人に見られないよう、きつく言われた。魔法が使えることが知られたら、悪い人に利用される。リオの一族がここまで減ったのは、悪い人が利用するためにさらっていったからだとも。だからリオ、大切な人を守る時以外は、なるべく魔法を使わないでねと、何度も何度も言い聞かされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子からは逃げられない!

krm
BL
僕、ユーリは王家直属の魔法顧問補佐。 日々真面目に職務を全うしていた……はずなのに、どうしてこうなった!? すべては、王太子アルフレード様から「絶対に逃げられない」せい。 過剰なほどの支配欲を向けてくるアルフレード様は、僕が少しでも距離を取ろうとすると完璧な策略で逃走経路を封じてしまうのだ。 そんなある日、僕の手に謎の刻印が浮かび上がり、アルフレード様と協力して研究することに――!? それを機にますます距離を詰めてくるアルフレード様と、なんだかんだで彼を拒み切れない僕……。 逃げられない運命の中で巻き起こる、天才王太子×ツンデレ魔法顧問補佐のファンタジーラブコメ!

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。 広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。 「は?」 「嫁に行って来い」 そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。 現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる! ……って、言ったら大袈裟かな? ※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話 【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】 孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。 しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。 その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。 組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。 失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。 鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。 ★・★・★・★・★・★・★・★ 無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。 感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡

処理中です...