16 / 241
16
しおりを挟む
州と州を行き来するには、通行証がいる。
子どもの手のひら程の大きさの板状で、金属でできている。端に穴を開けて革紐を通し、首からぶら下げるのだ。通行証は身分証明書みたいなものだ。
リオは、昔に母さんが作ってくれたものを、ずっと使用している。
大きな袋を背中に負い、紐を肩からかけた小さな鞄にアンを入れて、通行証を手に州境に向かっている時だった。後方から二頭の騎馬が現れて、通行証を確認していた役人の前で止まり何かを伝えている。
州境を越えるために順番を待っていた人々が、何事かと騒ぎ出した。大きな荷車を引く商売人達は「どうしたんだ!早くしてくれっ」と叫んでいる。
リオも並んでいた列から顔を出して、前方を見た。騎馬から降りた騎士と数人の役人が顔を寄せて難しい顔をしている。
リオはなぜか胸騒ぎがしてきた。何も問題ある行動はしていない。大丈夫だ。だけど不安で胸が苦しくなってくる。
しばらくして役人達が、州境を行き来する門の前に立ちはだかった。騒いでいる人々に向かって、騎士が大声で言う。
「人を捜している!金髪に赤い瞳の少年だ。急いでいるところを申しわけないが、門を通る前に人相を改めさせてもらう!」
「その少年は、何したんですっ?」
前方にいた人の中から声があがる。
再び騎士が、よく通る声を出した。
「詳しくはわからない。ただ必ず見つけるよう、上から通達があった。心当たりのある者は申し出よ!」
静かに聞いていた人々が、周りを見渡しヒソヒソと話し始める。
リオは被っていたフードを更に深く被り、目を隠すよう引っ張った。
え?ちょっと待って?金髪に赤い瞳って、まんま俺じゃん!え?なんで俺、お尋ね者になってんの?なんかした?なんもしてないよ?
このまま並んでいたら、顔を確認されて捕まってしまう。もしくは周りの人にバレて、役人の前に突き出されてしまう。
リオはそっと列から抜けて州境の門から離れた。そして騒ぎ出した人々に紛れて、後方の街の中へ逃げ込んだ。
ずいぶんと歩いて、州境の門から離れたから大丈夫だろうと息を吐いたが、そうでもなかった。街のあちらこちらで、人々がリオの話をしている。
「金髪で赤い瞳の少年だって。そんな子いたっけ?」
「さあな。俺は見てないが」
「その子、何したんだろうねぇ。盗みかしら?」
「え?うそだろ?人を殺したって?」
リオは危うく声を出しそうになった。慌てて口を手で塞いで路地に隠れ、アンを抱きしめて座り込んだ。
おいおい、俺…とんでもない犯罪者になってないか?盗みなんてしてねーよ。逆に俺が盗まれたっていうのに。しかも人殺しまでしたことになってる。嘘だろ…。これ、捕まったら死罪じゃないの?
たぶん、この街にいたらダメだ。というか、この州にいたらダメだ。早く隣の州に行かなきゃ。でも役人に門を塞がれて越えられない。しかも俺は見つかったら捕まるらしい。
「どうしよう…アン」
情けない声を出したリオの鼻を、アンが温かい舌でペロリと舐めた。
子どもの手のひら程の大きさの板状で、金属でできている。端に穴を開けて革紐を通し、首からぶら下げるのだ。通行証は身分証明書みたいなものだ。
リオは、昔に母さんが作ってくれたものを、ずっと使用している。
大きな袋を背中に負い、紐を肩からかけた小さな鞄にアンを入れて、通行証を手に州境に向かっている時だった。後方から二頭の騎馬が現れて、通行証を確認していた役人の前で止まり何かを伝えている。
州境を越えるために順番を待っていた人々が、何事かと騒ぎ出した。大きな荷車を引く商売人達は「どうしたんだ!早くしてくれっ」と叫んでいる。
リオも並んでいた列から顔を出して、前方を見た。騎馬から降りた騎士と数人の役人が顔を寄せて難しい顔をしている。
リオはなぜか胸騒ぎがしてきた。何も問題ある行動はしていない。大丈夫だ。だけど不安で胸が苦しくなってくる。
しばらくして役人達が、州境を行き来する門の前に立ちはだかった。騒いでいる人々に向かって、騎士が大声で言う。
「人を捜している!金髪に赤い瞳の少年だ。急いでいるところを申しわけないが、門を通る前に人相を改めさせてもらう!」
「その少年は、何したんですっ?」
前方にいた人の中から声があがる。
再び騎士が、よく通る声を出した。
「詳しくはわからない。ただ必ず見つけるよう、上から通達があった。心当たりのある者は申し出よ!」
静かに聞いていた人々が、周りを見渡しヒソヒソと話し始める。
リオは被っていたフードを更に深く被り、目を隠すよう引っ張った。
え?ちょっと待って?金髪に赤い瞳って、まんま俺じゃん!え?なんで俺、お尋ね者になってんの?なんかした?なんもしてないよ?
このまま並んでいたら、顔を確認されて捕まってしまう。もしくは周りの人にバレて、役人の前に突き出されてしまう。
リオはそっと列から抜けて州境の門から離れた。そして騒ぎ出した人々に紛れて、後方の街の中へ逃げ込んだ。
ずいぶんと歩いて、州境の門から離れたから大丈夫だろうと息を吐いたが、そうでもなかった。街のあちらこちらで、人々がリオの話をしている。
「金髪で赤い瞳の少年だって。そんな子いたっけ?」
「さあな。俺は見てないが」
「その子、何したんだろうねぇ。盗みかしら?」
「え?うそだろ?人を殺したって?」
リオは危うく声を出しそうになった。慌てて口を手で塞いで路地に隠れ、アンを抱きしめて座り込んだ。
おいおい、俺…とんでもない犯罪者になってないか?盗みなんてしてねーよ。逆に俺が盗まれたっていうのに。しかも人殺しまでしたことになってる。嘘だろ…。これ、捕まったら死罪じゃないの?
たぶん、この街にいたらダメだ。というか、この州にいたらダメだ。早く隣の州に行かなきゃ。でも役人に門を塞がれて越えられない。しかも俺は見つかったら捕まるらしい。
「どうしよう…アン」
情けない声を出したリオの鼻を、アンが温かい舌でペロリと舐めた。
54
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
王太子からは逃げられない!
krm
BL
僕、ユーリは王家直属の魔法顧問補佐。
日々真面目に職務を全うしていた……はずなのに、どうしてこうなった!?
すべては、王太子アルフレード様から「絶対に逃げられない」せい。
過剰なほどの支配欲を向けてくるアルフレード様は、僕が少しでも距離を取ろうとすると完璧な策略で逃走経路を封じてしまうのだ。
そんなある日、僕の手に謎の刻印が浮かび上がり、アルフレード様と協力して研究することに――!?
それを機にますます距離を詰めてくるアルフレード様と、なんだかんだで彼を拒み切れない僕……。
逃げられない運命の中で巻き起こる、天才王太子×ツンデレ魔法顧問補佐のファンタジーラブコメ!
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜
天宮叶
BL
十歳の誕生日の日に森に捨てられたソルは、ある日、森の中で見つけた遺跡で言葉を話す剣を手に入れた。新しい友達ができたことを喜んでいると、突然、目の前に魔王が現れる。
魔王は幼いソルを気にかけ、魔王城へと連れていくと部屋を与え、優しく接してくれる。
初めは戸惑っていたソルだったが、魔王や魔王城に暮らす人々の優しさに触れ、少しずつ心を開いていく。
いつの間にか魔王のことを好きになっていたソル。2人は少しずつ想いを交わしていくが、魔王城で暮らすようになって十年目のある日、ソルは自身が勇者であり、魔王の敵だと知ってしまい_____。
溺愛しすぎな無口隠れ執着魔王
×
純粋で努力家な勇者
【受け】
ソル(勇者)
10歳→20歳
金髪・青眼
・10歳のとき両親に森へ捨てられ、魔王に拾われた。自身が勇者だとは気づいていない。努力家で純粋。闇魔法以外の全属性を使える。
ノクス(魔王)
黒髪・赤目
年齢不明
・ソルを拾い育てる。段々とソルに惹かれていく。闇魔法の使い手であり、歴代最強と言われる魔王。無口だが、ソルを溺愛している。
今作は、受けの幼少期からスタートします。それに伴い、攻めとのガッツリイチャイチャは、成人編が始まってからとなりますのでご了承ください。
BL大賞参加作品です‼️
本編完結済み

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます
天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。
広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。
「は?」
「嫁に行って来い」
そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。
現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる!
……って、言ったら大袈裟かな?
※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる