狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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 ギデオンは手綱さばきが上手かった。休憩を挟んで二時間弱は乗っていたと思うけど、リオの尻と腰への負担は最小限で済んだ。それに本来ならもっと早く走らせられるだろうに、かなりゆっくりと進んでくれたみたいだ。顔に似合わず優しいんだなと失礼なことを思いながら、リオは馬を降りた。

「ありがとう。予定よりもすごく早く街に着いたよ。礼はどうすればいい?」
「礼などいらぬ。俺もこの街に来るつもりだった。ついでに乗せただけだ」
「でも…本来ならもっと早く来れたのに、俺に気を遣ってめちゃ速度落としてただろ」

 馬の首を撫でていたギデオンが、少しだけ驚いた顔の後に笑った…ような気がした。見た目は変わらないけど、微かに頬が緩んだ気がした。

「馬の負担を考えてそうしただけだ。気にするな。俺はもう行く。この先、気をつけて進めよ」
「本当に助かった。ありがとう!ギデオン…さんも気をつけて!」
「ああ」

 ギデオンは頷くと、街の中へと去って行った。
 リオはギデオンの姿が角を曲がって見えなくなるまで見送って、前に抱えていた荷物を背負って歩き出す。

「今日はうまい飯食って、いい宿に泊まろうかなぁ。いつもよりマシだけど、馬に乗って腰が痛いし」

 たまには贅沢をすることも大事だ。心も身体も潤う。リオはキョロキョロと首をめぐらせながら気に入った宿を探し始めた。
 この街はそこそこの大きな街で、人の往来も激しい。気をつけないとリオの大きな荷物が人に当たってしまう。なるべく人の邪魔にならないように進んでいたが、背中の荷物にばかり気を取られていたために、正面から人にぶつかった。

「うわっ、ごめん!大丈夫?」
「…うん」

 ぶつかったのは、リオより少し小さい少年だった。俯いているし帽子をかぶっているから顔がよくわからない。リオがかがんで顔を覗き込もうとすると、少年はリオの横をすり抜けて走り去ってしまった。

「あっ、ちょっ…。あれぇ、俺の顔は怖くないと思うんだけど」

 これがギデオンなら逃げ出すのもわかる。でも誰とでも仲良くできる魅力的な俺だぞ?逃げられたのなんて初めてだ。なんか…ショックだな。
 リオは少年が消えた方角を眺めていたが、まあいいかと歩き出そうとして、年配の女の人に止められた。

「ちょいとアンタ」
「はい?」
「大丈夫かい?」
「え?何が?」
「さっきの男の子にスられたんじゃないのかい?」
「……ええっ!」

 リオは慌ててショートマントの下に隠れている、首からぶら下げた小さなカバンの中を確認した。

「うそだ…無い!銀貨が無い!」
「おやまあ、銀貨を持ってたのかい。それは悔しいねぇ」

 リオは勢いよく女の人に向き直り、早口で聞いた。

「さっきの少年!どこの誰かわかるっ?」
「ごめんよ、私はわからないんだよ。ここは人が多い分、ああいうスリも多いからねぇ。次からは気をつけるんだよ」
「えー……」

 女の人は気の毒そうに俺を見て、離れて行った。
 リオは天獄から地獄へ落とされた気持ちでトボトボと歩き、かなりの時間、街の中をさまよい、ひときわ大きな宿の前で足を止めた。

 
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