狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「くそ…ホントならこれくらいの宿で贅沢するはずたったのに…」

 三階建ての綺麗な宿を見上げてブツブツと呟いていると、宿の入口から人の良さそうなおじさんが出てきた。
 リオはひどく悲しそうな顔でおじさんに近寄る。

「あの…少しいいですか?」
「ん?なんだい?」
「俺…ついさっきスリにあって…。泊まることも…食べ物を買うこともできないんです…。あのっ、何でもします!仕事ありませんか?」

 自分で言うのもなんだけど、俺は容姿がいい。綺麗だとも可愛いともよく言われる。そして実年齢よりもかなり若く見られる。
 おじさんはリオをかわいそうな少年だと思ったらしい。おじさんまで悲しそうな顔になって、色々と聞いてきた。

「それは大変だったね。君のご両親はどうしたんだい?」
「両親は死んでいません。俺は一人で旅をしてるんです」
「そうか…。もうすぐ日が暮れるし、君みたいな子が野宿も危ない。よしわかった。ウチに泊まりなさい。その代わり仕事を手伝ってもらおう」
「はいっ、ありがとうございます」
「いい返事だね。さあ中へお入り。あ、ノラ。ちょうどよかった。この子に仕事を手伝わせてあげてくれ」

 おじさんに促されて中へ入ると、畳んだシーツを持った女の人が横切った。その人を呼び止めて、おじさんがリオの背中を優しく押す。
 ノラと呼ばれた女の人は、こちらを向いて声を上げた。

「あらっ、どうしたの?泣きそうな顔しちゃって」

 あ、そういえば、まだ悲しそうな顔をしたままだった。まあ、この顔をしていれば、誰もが不憫に思ってかわいがってくれるからいっか。

「それがな、この坊や、一人で旅をしてるんだそうだ。この年で一人で旅をするのも大変なのに、スリにあって困ってるらしい」
「まあ!」

 おじさんから話を聞いたノラが、口に手を当てて叫び、リオの前に来た。

「辛い目にあったのねぇ。好きなだけここにいて仕事を手伝ってちょうだいな。そんなに難しくはないからね」
「大丈夫です。力仕事もします。よろしくお願いします!」
「まあまあ、しっかりした子ねぇ」

 ノラが涙ぐみながら何度も頷いている。
 おじさんもノラも、俺を何歳だと思っているのか。俺は十七歳だ。この冬には成人の十八歳になる。でもそれは言わないでおこう。幼く見える方が親切にしてもらえることを、旅の中で学んでいる。
 リオはおじさんに礼を言って、仕事場に案内するというノラについて行った。

 
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