狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹

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「おばちゃん、これを街で売ってきたらいいんだな?」
「そうだよ。それ全部売れたら銀貨一枚だ」
「えっ、いいの?」 
「街まではかなり距離があるからねぇ。いつもは旦那が行ってるけど、今は腰をやって役に立たないし。だからあんたが手伝ってくれて助かるんだよ」
「わかった。全部売ってきてやるからな!」
「気をつけて行くんだよ」
「うん!」

 リオは大きく手を振り馬に飛び乗った。後ろには小さな荷車があり、様々な野菜が乗っている。
 ここは街からずいぶんと遠く離れた村だ。リオが依頼を受けたおばちゃんは、夫と野菜を作り、それを街で売って暮らしているそうだ。
 リオが村の中をうろついていると「仕事を手伝ってくれるなら賃金を払う」と声をかけられて二つ返事で飛びついた。願ってもない話だ。だって、そろそろ金が底をつき始めていたから。
 リオはズボンのポケットの中の、ほとんど金が残っていない袋を握りしめて笑った。


 リオは旅をしながら行く先々で仕事を探し、金を稼いで暮らしている。二年前に母親が病気で亡くなり、家を出てきた。
 リオは物心ついた頃から、母親と二人暮らしだった。森の奥にある、とても小さな村の、小さな家で暮らしていた。周りに数軒の似たような家があり、何人かの村人がいたが、年数が経つごとに一人二人と減っていき、最後の三年ほどは母親と二人きりの生活だった。だけど寂しくはなかった。母親がいたから。母親はあることをリオに教える時だけ、とても厳しかったが、それ以外では明るくて優しくて楽しい人だった。それにとても綺麗な人だったなと、旅を始めてから気づいた。村を出るまでは村人しか知らなかったから、特に何も思わなかったけど、村を出てたくさんの人を見て、母親だけじゃなく村人達も皆、とても整った美しい顔立ちをしていたと気づいた。当然、母親に似ているリオも綺麗な顔をしている。自分で言うのもなんだが、よく女の人に声をかけられる。女の人だけじゃなく、時々身分の高そうな男にも声をかけられる。
 人に好意を寄せられることは嫌じゃない。それにリオは、その好意を利用して仕事を探す。働いて金を稼がなきゃ食っていけないからだ。好意を利用するといっても、身体を売ったりはしていない。荷運びや大工仕事、護衛などリオができそうな仕事を紹介してもらうのだ。
 前回は金持ちの娘の護衛を任された。娘に惚れられて大変だったけど、五日の仕事で銀貨二十枚をもらった。その銀貨で、二ヶ月は気楽に旅ができた。でも金が減り、こんな田舎の村じゃ仕事無いよな…と困って歩いている所を、おばさんに声をかけられたのだ。ラッキーだった。
 リオにはそういう所がある。困っていると、いつも誰かが助けてくれる。母さんはよく「あなたは神に愛されているのよ」と話してたけど。リオは信じていない。だって神は、母さんの病気を治してくれなかったから。リオを一人にしたから。
 リオが困らなくて済んでいるのはきっと、出自のせいかしれない。
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