409 / 432
47
しおりを挟む
森の中をあてもなく歩き回る。そう簡単にハオランが見つかるわけもなく、しばらく捜しては足を止めてため息をつくことを繰り返した。
「闇雲に捜してもなぁ。どうすればいいんだろ…」
「まあ確かに。でもハオランは、気づいたらこの森にいたと話してたんですよね?でしたら戻ってくるならここのはずなんですが」
「カナもそうだったんだっけ?」
「はい」
「父さまはカナが戻ってくることがわかってたの?」
「いつ戻るかはハッキリとわかってなかったと思います。しかしカナが戻る数日前から、心が騒いで落ち着かないとは仰られてました」
「あー…じゃあまだ戻ってこないのかな。ハオランが消えて不安な気持ちで落ち着かないけど、心が騒いではいないから」
「なるほど…」
俺は疲れて大きな木にもたれた。
目の前でリオが腕を組み、何かブツブツと呟いている。真剣にどうすればハオランが戻って来るのかを考えてくれているのだろう。
リオは軽くて頼りないところもあるが、俺が生まれた時から世話をしてくれている。何もしなくても、傍にいてくれるだけで心強いんだ。
俺は木から離れると、空を仰いで両腕を伸ばした。雲ひとつない空が眩しくて目を細める。ここは静かだ。時おり吹く風に揺らされる葉の音と、鳥のさえずりしか聞こえない。少しだけ穏やかな気持ちになって耳を澄ませていると、かすかに水の音が聞こえきた。
「リオ、近くに川がある」
「え、ほんとに?」
「うん、水の音がする」
「ほぇ…カエン様の五感は素晴らしいですねぇ」
間の抜けた顔で答えるリオに笑って、俺は水の音がする方へと進んだ。広い間隔で生えている木々の間を進んでいくと、緩やかな斜面の下に小さな川が流れているのを見つけた。
川に近づきしゃがんで手を浸す。とても冷たくて気持ちがいい。
すぐにリオも隣に来て、同じように手を浸している。
「冷たっ。きれいな水ですね。森の向こう側にある山から流れてきているのでしょう」
「そうだな…」
山の雪解け水が流れてきているのか。冷たくてきれいなはずだ。
充分に手を冷やして立ち上がる。その時、川を挟んだ向こう側に穴を見つけた。小さな洞窟だ。
俺は遅れて立ち上がったリオの腕を掴む。
「リオ、あそこを見て。洞窟がある」
「え?あ、ほんとだ」
「行ってみよう」
「え、待って。変な生き物とかの巣じゃないでしょうね…」
「大丈夫だろ」
「いやいや…あっ、待ってください!もっと用心してっ…」
「おまえはうるさいなぁ。そんな大声出してたら、変な生き物が飛び出してくるかもよ」
「…え?」
リオがピタリと黙る。
リオって本当に単純でおもしろい。
俺はククッと笑いながら川の中に飛び飛びにある石を踏んで向こう岸に渡った。そして洞窟の前で足を止めて注意深く中を覗く。
「なにかいます?」
リオが俺の背中から顔を出して囁いた。
普通こういう時って部下が先に調べるもんじゃないの?と思いながら「いないよ」と笑う。
俺は手のひらに炎を出すと、足下を照らしながら中へ入った。
「闇雲に捜してもなぁ。どうすればいいんだろ…」
「まあ確かに。でもハオランは、気づいたらこの森にいたと話してたんですよね?でしたら戻ってくるならここのはずなんですが」
「カナもそうだったんだっけ?」
「はい」
「父さまはカナが戻ってくることがわかってたの?」
「いつ戻るかはハッキリとわかってなかったと思います。しかしカナが戻る数日前から、心が騒いで落ち着かないとは仰られてました」
「あー…じゃあまだ戻ってこないのかな。ハオランが消えて不安な気持ちで落ち着かないけど、心が騒いではいないから」
「なるほど…」
俺は疲れて大きな木にもたれた。
目の前でリオが腕を組み、何かブツブツと呟いている。真剣にどうすればハオランが戻って来るのかを考えてくれているのだろう。
リオは軽くて頼りないところもあるが、俺が生まれた時から世話をしてくれている。何もしなくても、傍にいてくれるだけで心強いんだ。
俺は木から離れると、空を仰いで両腕を伸ばした。雲ひとつない空が眩しくて目を細める。ここは静かだ。時おり吹く風に揺らされる葉の音と、鳥のさえずりしか聞こえない。少しだけ穏やかな気持ちになって耳を澄ませていると、かすかに水の音が聞こえきた。
「リオ、近くに川がある」
「え、ほんとに?」
「うん、水の音がする」
「ほぇ…カエン様の五感は素晴らしいですねぇ」
間の抜けた顔で答えるリオに笑って、俺は水の音がする方へと進んだ。広い間隔で生えている木々の間を進んでいくと、緩やかな斜面の下に小さな川が流れているのを見つけた。
川に近づきしゃがんで手を浸す。とても冷たくて気持ちがいい。
すぐにリオも隣に来て、同じように手を浸している。
「冷たっ。きれいな水ですね。森の向こう側にある山から流れてきているのでしょう」
「そうだな…」
山の雪解け水が流れてきているのか。冷たくてきれいなはずだ。
充分に手を冷やして立ち上がる。その時、川を挟んだ向こう側に穴を見つけた。小さな洞窟だ。
俺は遅れて立ち上がったリオの腕を掴む。
「リオ、あそこを見て。洞窟がある」
「え?あ、ほんとだ」
「行ってみよう」
「え、待って。変な生き物とかの巣じゃないでしょうね…」
「大丈夫だろ」
「いやいや…あっ、待ってください!もっと用心してっ…」
「おまえはうるさいなぁ。そんな大声出してたら、変な生き物が飛び出してくるかもよ」
「…え?」
リオがピタリと黙る。
リオって本当に単純でおもしろい。
俺はククッと笑いながら川の中に飛び飛びにある石を踏んで向こう岸に渡った。そして洞窟の前で足を止めて注意深く中を覗く。
「なにかいます?」
リオが俺の背中から顔を出して囁いた。
普通こういう時って部下が先に調べるもんじゃないの?と思いながら「いないよ」と笑う。
俺は手のひらに炎を出すと、足下を照らしながら中へ入った。
1
お気に入りに追加
1,670
あなたにおすすめの小説


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる