炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
406 / 432

44

しおりを挟む
久しぶりの自分の部屋だというのに、どうにも落ち着かない。ハオランのことが気になって仕方がない。
俺はベッドに寝転び右を向いたり左を向いたりしていたが、勢いよく起き上がってベッドから降りた。そしてハオランが使っていた部屋の扉を開けようと手をかけた時、激しく扉が叩かれた。

「なんだ!」
「カエン様!リオです!入りますよっ」

俺が返事をするよりも早く扉が開く。
真っ赤な顔をしたリオが息を切らしながら入ってくる。

「リオ、早かったな。すぐに俺の後を追いかけてきたのか?」
「そうです!城に戻るとだけ言われても何のことだかわかりませんからね!それに俺はあなたの世話を任されてますからね!」
「悪かったな。緊急事態だったから」

俺は傍に来たリオの肩に手を置いて力なく笑う。
リオは肩に置かれた手を見つめて大きく息を吐いた。

「ハオランの姿が見えませんが…。彼に何かあったのですか?」
「そうだよ…」
「はっ!もしや逃げた…?」
「馬鹿言うな。ハオランはそんなことしない。俺の傍を離れないと言ってくれたし」
「では…もしや消えたので?」
「…なぜそう思う」

リオの肩に置いていた手を降ろして、俺は低く聞く。
リオはようやく息が整ったらしく、落ち着いた声で俺に座るように言った。

「カエン様、どうぞおかけになって下さい。昨夜、カエン様と一緒にハオランの姿も見えなくなりました。二人で散歩にでも出掛けたか急用で中央の城に戻ったのかと思ってました。だけど朝早くにカエン様だけ戻って来ました。そして慌てて中央の城に行ってしまった。俺はカエン様の後を追いかけながら考えたんです。あなたは最近ハオランととても仲が良い。そのハオランがいなくなってアルファム様のいらっしゃる城に戻ると言う。これはもしや、ハオランは元の世界に戻ったのかもしれないと」
「リオは変な所で勘がいいよね…」
「それは褒めて下さってるのですよね?」
「そうだよ」
「ありがとうございます。カナデも昔、一度だけ元の世界に戻ったことがあります。あの時、カナデは川に落ちて俺も助けに川に飛び込みました。カナデは俺の手が触れる直前に、渦に飲まれて消えたんです」
「カナが?」
「はい…。あの時俺は、とても後悔しました。なぜカナデの手を掴めなかったのか、なぜ助けれなかったのかと…。でもアルファム様は絶対にカナデは生きてると信じてましたよ。そうしたら本当に、再び海辺の城に現れたんです」
「その話、父さまにも聞いた」
「え?そうでしたか…」

二人の話を聞いて、俺の中の焦りが少し減ってきた。ハオランも再びこの世界に戻って来る気がする。たとえどんな困難に合っていても、俺の元へ戻って来る気がする。
俺はしばらく休むからとリオを部屋から出して、ハオランが使っていた部屋に入った。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

処理中です...