炎の国の王の花

明樹

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海辺の城に来てから十二日目の夜更けに、俺はこっそりと部屋を抜け出した。剣を腰のベルトに挟み少しの金が入った袋をズボンのポケットに入れると、マントを羽織って扉を開けた。扉を開けた時に、ハオランがいる部屋を囲う結界も解いた。俺がここを出て行くのに閉じ込めているのは可哀想だ。後はリオが上手くやってくれる。
一度だけハオランのいる部屋を振り向くと、元気で…と呟いて部屋を離れた。

厩舎に行くと俺に気づいたオルタナが寄って来た。首を伸ばして鼻を擦りつけてくる。
「オルタナ…悪いな。また俺に付き合ってくれるか?」
ブルルと鼻を鳴らすオルタナの首を撫でてやる。
オルタナが少し屈むと軽々と柵を飛び越えた。
俺がオルタナの背に飛び乗った瞬間、「カエン!」とハオランの声がした。
驚いて勢いよく振り返った俺の目に、オルタナの尻尾を掴んでこちらを睨むハオランの姿が映った。
「おまえ…何して…」
「カエン!どこ行くんだよっ。俺も一緒に行く!」
「駄目だ。ここで大人しくしていろ」
「嫌だ!カエンがいないと犯罪者の俺はすぐに処刑されてしまうぞ!」
「それはない。リオがちゃんと世話をしてくれる」
「そんなのわかんないだろっ!それにカエンは言ったじゃないか!俺が傍にいれば楽になるってっ。だから絶対に離れない!」
「ハオラン…」
俺が困ってハオランを見つめている間に、ハオランがオルタナの背によじ登ってきた。そして俺の後ろに跨ると、強くしがみついた。
「俺、死んでも離さないからな!」
「はあ…わかったよ。連れて行くから前においで」
「え?うん…」
俺は溜息をつきながらハオランの両脇に手を入れて抱え、前に座らせる。
「ほら、腕を回して俺に抱きついてて」
「え?うん…」
ハオランが戸惑いながら俺の腹に手を回す。
後ろだと振り落とされそうで怖いし、前だと物が飛んできた時に危ない。だから俺の方に向けて座らせ、しっかりと抱きつかせたのだ。
俺は片手で手綱を握りもう片方の手でハオランの背を抱きしめた。そしてオルタナの腹を軽く蹴る。オルタナは助走をつけて走り出すと、空高く翔け上がった。
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