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それから毎日、ハオランからハオランのいた世界の話を聞き、こちらの世界の話を聞かせた。ハオランはこの世界にひどく興味を持ったようで、色んな所に連れて行って欲しいと目を輝かせて強請るようになった。その顔を見ているといつかは連れて行ってやりたいと思うが、まだ罪を償っていないから、いつになるかはわからない。だけど余りにも熱心に言うものだから、俺は「必ず連れて行ってやるよ」と約束した。
焼けた街の再建も、シアンの指示のもと進んでいる。近隣の地区から材料や大工を集めたので、シアン曰く「五十日もあれば再建出来るでしょう」とのことだ。
再建費用は国が負担することになっている。こういう非常事態の為に、国庫を貯蓄していて良かったと心底思う。前王の父さまのお陰だ。俺も、父さまに負けない様に頑張ろうと改めて誓った。
数日は、穏やかな日が過ぎた。
ハオランは、俺と話をする時以外は、部屋で大人しくこの国の読めない書物を眺めている。俺と会った時に「これはどういう意味?」と尋ねたりして、少しずつ文字を理解しているようだ。
そういえば、話す言葉は最初から話せていた。ハオランは「自分の国の言葉を喋っているだけ」と言ってたけど、どう聞いてもこの世界の言葉に聞こえる。
母さまも同じようなことを言っていたと、リオから聞いたことがある。
まあ違う世界からこの世界へと来ること自体が不思議なんだから、言葉が通じても何ら不思議ではないかと思った。
ハオランと出会って十日経った頃から、俺の体調が少しずつおかしくなってきた。
ふとした時に、幻聴が聞こえるのだ。あの黒い雷を出した時のように、怪しい声が聞こえる。俺に「世界の王になれ」と頭の中で囁くのだ。気のせいだと無視をしていたけど、日に日に聞こえる間隔が短くなり、そのうち職務にも支障をきたすようになってきた。
俺の異変に最初に気づいたのはハオランだ。
いつもの様にこの世界について話してる最中に、また声が聞こえてきた。
俺は言葉を止めて、額に手を当てて俯いた。
自分ではわからなかったが、ひどく汗をかいていたらしい。
「カエン、どうしたの?気分悪い?」
「…少し、頭が痛いだけだ。大丈夫…」
「大丈夫じゃないよっ。顔が真っ青だっ。俺、薬をもらってくる!」
「駄目だよ、ハオラン。おまえはこの部屋から出られないんだから…」
「でもっ!じゃあシアンさんを呼ぼう?」
「本当に大丈夫…。少し休めば治るから…」
「カエン…」
ハオランが小さく呟いて、席を立って俺の傍に来る。そして俺の額に手を当てると、何かをブツブツと呟いた。
ハオランの手が冷たくて、少しだけ気分がマシになる。俺は顔を上げてハオランを見ると、「何してるの?」と掠れた声で聞いた。
「おまじない。カエンの痛みが飛んで行くように」
「ふ…どこに飛んで行くんだ?」
「どこだろ?わからないけど、俺に飛んで来てもいいし」
「それは…駄目だろ。おまえに痛みを与えてまで治りたいとは思わないよ…」
「カエン…」
俺が力なく笑うと、なぜかハオランが涙ぐんでいる。泣きたいのは頭の痛い俺の方だろとおかしくなって、俺は声を出して小さく笑った。
焼けた街の再建も、シアンの指示のもと進んでいる。近隣の地区から材料や大工を集めたので、シアン曰く「五十日もあれば再建出来るでしょう」とのことだ。
再建費用は国が負担することになっている。こういう非常事態の為に、国庫を貯蓄していて良かったと心底思う。前王の父さまのお陰だ。俺も、父さまに負けない様に頑張ろうと改めて誓った。
数日は、穏やかな日が過ぎた。
ハオランは、俺と話をする時以外は、部屋で大人しくこの国の読めない書物を眺めている。俺と会った時に「これはどういう意味?」と尋ねたりして、少しずつ文字を理解しているようだ。
そういえば、話す言葉は最初から話せていた。ハオランは「自分の国の言葉を喋っているだけ」と言ってたけど、どう聞いてもこの世界の言葉に聞こえる。
母さまも同じようなことを言っていたと、リオから聞いたことがある。
まあ違う世界からこの世界へと来ること自体が不思議なんだから、言葉が通じても何ら不思議ではないかと思った。
ハオランと出会って十日経った頃から、俺の体調が少しずつおかしくなってきた。
ふとした時に、幻聴が聞こえるのだ。あの黒い雷を出した時のように、怪しい声が聞こえる。俺に「世界の王になれ」と頭の中で囁くのだ。気のせいだと無視をしていたけど、日に日に聞こえる間隔が短くなり、そのうち職務にも支障をきたすようになってきた。
俺の異変に最初に気づいたのはハオランだ。
いつもの様にこの世界について話してる最中に、また声が聞こえてきた。
俺は言葉を止めて、額に手を当てて俯いた。
自分ではわからなかったが、ひどく汗をかいていたらしい。
「カエン、どうしたの?気分悪い?」
「…少し、頭が痛いだけだ。大丈夫…」
「大丈夫じゃないよっ。顔が真っ青だっ。俺、薬をもらってくる!」
「駄目だよ、ハオラン。おまえはこの部屋から出られないんだから…」
「でもっ!じゃあシアンさんを呼ぼう?」
「本当に大丈夫…。少し休めば治るから…」
「カエン…」
ハオランが小さく呟いて、席を立って俺の傍に来る。そして俺の額に手を当てると、何かをブツブツと呟いた。
ハオランの手が冷たくて、少しだけ気分がマシになる。俺は顔を上げてハオランを見ると、「何してるの?」と掠れた声で聞いた。
「おまじない。カエンの痛みが飛んで行くように」
「ふ…どこに飛んで行くんだ?」
「どこだろ?わからないけど、俺に飛んで来てもいいし」
「それは…駄目だろ。おまえに痛みを与えてまで治りたいとは思わないよ…」
「カエン…」
俺が力なく笑うと、なぜかハオランが涙ぐんでいる。泣きたいのは頭の痛い俺の方だろとおかしくなって、俺は声を出して小さく笑った。
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