炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
377 / 432

15

しおりを挟む
「カエン様、大丈夫だとは思いますが、あいつが何を言っても動揺なさいませんよう」
「わかってる。行くよ」

薄暗い通路を進み、一番奥の牢の前で止まる。鉄格子越しに中を見る。
男が床に転がっている。その男の両手両足には、鉄の輪っかがつけられている。その四つの輪っかには魔法が施されており、男が逃げ出そうとすると、後ろの壁に両手両足が張りつくようになっているのだ。

俺が鉄格子を叩くと、男が顔を上げてこちらを見た。
そして俺と目が会った瞬間、飛び起きて不気味に笑った。

「久しぶりだな…。会いたかったぞ」
「俺はもう会いたくなかったけどね。それで?話ってなに?適当なことは言うなよ。時間の無駄だから」
「俺は…嘘は言わぬ。俺は、時空を歪めて別の世界から来たからわかる。五日ほど前、誰かがこの世界へ落ちてきたぞ」
「……あんたが生贄にするために呼んだんじゃなくて?」
「俺が生贄を呼べるのは一度きりだ。そいつを生贄にできなかったから、今こうしてここにいる」
「ふーん。残念だったね。じゃあその人はなんでこの世界に来たんだ?」
「それは知らぬ。だが落ちたのは確かだ。この国に落ちた。今頃どこかをうろついているんじゃないか」
「……シアン。こいつの話が本当なら、その人を保護しないと。何もわからなくて困ってると思う」

俺は男を睨みつけたまま、顔を少しだけ後ろに向けて言う。
シアンも「そうですね」と頷き、後ろに控えていた兵の一人に何か指示を出した。

「ふ…ふ…ふははは!馬鹿かおまえ!そんな悠長にしている場合ではないぞ!」
「…何が?」

男の笑い声が、俺を苛立たせる。
こんな話を聞かせて、一体何がしたいのか。
俺は、苛立ちを露に男に聞く。
シアンが、心配そうに俺の名前を呼ぶのを、手で制した。

「早く言えよ。俺は暇じゃないんだ」
「まあ待て。ちゃんと教えてやる。俺は元いた世界で優秀な術使いだった。だから同じように時空を歪めて他の世界から来た人間の気配がよくわかる。五日ほど前に落ちてきた人間…そいつは邪悪の塊だぞ」
「……はあ?あんたの話を真面目に聞いてたけど時間の無駄だった。話はそれだけ?ご忠告どうも。じゃ、もう会うこともないけど、ここで自分の冒してきた罪を反省してて」

俺は身体の向きを変えて、鉄格子の前から離れようとした。
その瞬間、ガシャンと鉄格子が大きく揺れ、俺は振り向いた。
男が、鉄格子の間から伸ばした両掌をこちらに向け、大きな円形の黒い雷を飛ばす。
至近距離から飛ばされたそれを避けることも躱すことも出来ず、腹に受けてしまった。

「カエン様っ!!」

シアンが炎の塊を男にぶつける。
男の身体が後ろに飛んで、壁に張りついた。

「カエン様!早く治癒を…っ」
「シアン…違う。どこも…怪我は、ない…?」

俺は、確かに腹に攻撃を受けた。でも服すら焼けていない。痛みもない。今のは…攻撃ではなかったのか?

「ふ…ふふん、感謝しろ…。おまえに…俺の力を与えてやった。炎に加えて…雷も使える…。最強ではないか…。その力で、世界の王に…なると、い…い…」
「は?はあっ!なに勝手なことしてくれたんだよっ!おまえの力なんていらないっ!早く外せっ!」
「カエン様…もう…死んでます…」

俺は、シアンを見て男を見る。
男は、壁に張りついたまま、不気味な笑みを浮かべてピクリとも動かなかった。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

王と宰相は妻達黙認の秘密の関係

ミクリ21 (新)
BL
王と宰相は、妻も子もいるけど秘密の関係。 でも妻達は黙認している。 だって妻達は………。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

2人でいつまでも

むちむちボディ
BL
親父と息子の様なガチデブ2人の秘密の関係

処理中です...