炎の国の王の花

明樹

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まる五日、父さまと母さまの行方を捜したけど、見つけることが出来なかった。
やはり海辺の城にいるんじゃないかと急いで行ったけど、留守を預かる使用人が、驚いた顔をするばかりだった。
俺は更に国中を捜そうとした。
だけど、あまり長い間城を留守にするのは良くないとリオに説得されて、渋々城に戻った。

城に戻るとすぐに、ホルガーとシアン、事情を知る兵や使用人達に囲まれた。

「カエン様、アルファム様は、やはり海辺の城に…?」
「シアン…父さまは、海辺の城にはいないよ」
「は?ならどこにっ!」
「わからないんだよ…。カナが持ってた石も探知の魔法が効かないし、オルタナもヴァイスの匂いを辿れなかった。父さまが行きそうな所を回ってみたけど、どこにもいないんだっ…」

俺の言葉に、皆一様に暗い顔をして俯く。
俺は、深く深呼吸をした後に顔を上げた。

「ホルガー、シアン、リオ。とにかく今後のことについて話し合おう。でもその前に、俺は少し部屋で休む。後でローラントおじさんと一緒に来てくれ。リオも部屋で休むように」
「はい」
「承知しました」

俺は、手を振って皆に解散するように言うと、重い足を引きずりながら、部屋に向かった。

自室に向かう途中に、父さまと母さまの部屋がある。
俺は足を止めて、重厚な扉を押した。
見た目に反して、少しの力で扉が向こう側へと開く。
部屋の中は、綺麗に整えられている。
俺は、父さまがどこへ行ったのか、何か手がかりがないだろうかと、机や棚の引き出しを開けてみた。

机の引き出しの中に、手紙の束があった。
父さまに宛てた、母さまの拙い文字で書かれた手紙だ。

「俺がいた世界とは全く異なる文字だから、書くのが難しい」

困った風に笑いながら、母さまは文字を書く練習を続けていた。
俺も何度か母さまから手紙をもらったことがあるけど、ほとんどは、父さまに宛てたものばかり。
父さまは、とても嬉しそうに読んでは、丁寧に引き出しに仕舞っていたのを見たことがある。

俺は、手紙の束を取り出すと、椅子に座り、封筒から出して読み始めた。

『アル、初めてお腹の子が動いたの、わかったよ!かわいい!』

「お腹の子…?俺が、カナのお腹にいた時の手紙か…」

思わず笑ってしまう程の下手くそな字だけど、とても愛おしく感じる。
俺は、夢中で次々と手紙を読んだ。

『俺の不注意でお腹の子を危険な目に合わせちゃったね…。アルも心配させてごめんね…』
『お腹の子はきっとアルに似て綺麗な子だよ。だから、生まれるまでちびアルって呼ぶことにする!アルはちびカナって呼ぶけどさ…。俺に似るよりもアルに似た方がいいのに』
『良かった!生きてちびアルに会えた!俺は出産の時に意識がなかったから知らないけど、アルにはまた不安な思いさせちゃったね。ごめんね。でもほら、俺は元気になったから!もう大丈夫だよ!これから二人で、ちびアルを大事に育てていこうね』
『アル、ちびアルの名前、カエンでいいよって言ってくれてありがとう。俺が生まれた国の言葉で、炎の国にピッタリの名前なんだ。カエン、可愛いカエン、元気で強く、優しい子になってね。ずっと愛してるよ』

手紙は、まだまだたくさんある。
全部に目を通したいけど、涙が溢れて読み進めることが出来ない。
俺は、シャツの袖で顔を拭うと、違う引き出しにある手紙の束を掴んで、父さまのベッドに寝転んだ。
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