炎の国の王の花

明樹

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奏の想い  8

王都からローラントの領地までを、ヴァイスに乗って空から眺めた。
大好きな人と見る景色は、とても美しかった。
後ろからアルファムにしっかりと抱きしめられて、大好きな匂いに包まれて幸せだった。

「アル、ローラントに挨拶していく?」
「ん?行ってもいいが、今あいつはいないぞ」
「そうなの?」
「ああ。おまえと出会った城があるだろう。この前の嵐の時に、外壁が壊れた箇所がある。それを見に行ってもらっている」
「そっかあ。なら仕方ないね…」
「また元気な時に会いに来ればいい。それか王都に呼ぶか?」
「ううん。ローラントも忙しいんだから。それにしてもあの城、懐かしいね!また行きたいな」

アルファムと出会った海辺に建つ城。
俺のこの世界での人生が、あそこから始まったんだ。

「そうだな。外壁の修理は十日もあれば終わる。その後にカエンも連れて行こうか」
「……うん」

頷いたものの、アルファムに嘘をついたみたいで気まずくなって、俺は景色を見る振りをして俯いた。

十日かぁ…。長いな。皆で行きたかったけど、無理かもなぁ。俺は今、消える前の蝋燭と同じなんだ。蝋燭は、消える瞬間に一度、大きく火が灯る。それと同じ。俺が元気なのは、今日か明日だけ。自分のことだから、よくわかるんだ。

「カナ?」

不審に思ったのか、アルファムが俺の顔を覗き込んだ。
俺は、慌ててヴァイスの白い毛並みを撫でる。

「ヴ、ヴァイスって、本当に綺麗な馬だよねっ。結局俺は、自分の馬を乗りこなせなかったけど、ヴァイスに乗れて楽しかった。ありがとね、ヴァイス」
「おまえが一人で乗ると、俺の心臓が幾つあっても足りん。いつ落ちやしないかと恐ろしかったからな。これからも俺が、ヴァイスに乗せてやる。それでいいだろう」
「うん。アル…ありがとう」

俺のお腹に回された手を持ち上げて、指にキスをする。
その手が、俺の顎を掴み、後ろを向かせる。
緑色の瞳が近づいて、唇に柔らかいものが触れる。何十、何百、何千としてきたアルファムとのキスだけど、いつもいつもドキドキする。唇が震えて、俺の中が好きでいっぱいになる。

「アル…愛してるよ。あの、さ…」
「俺も愛してるぞ。ん?なんだ?」
「……やっぱりいいや」
「なんだ?気になるではないか」
「んー…、またそのうち言うよ。ね、そろそろ帰ろっか。カエンが心配してるかもしれない」
「ふむ…。帰ったら聞かせろよ。ヴァイス、行くぞ」

アルファムが、ヴァイスの横腹を軽く蹴る。
ヴァイスが、美しい翼を大きく羽ばたかせて、空をかける。
俺は、眼下に流れゆく景色を忘れないように、しっかりと目に焼きつけた。



さっき、アルファムに言おうとして止めたこと。

『アル、俺が死んだら、アルと出会った海辺の城の敷地に、俺を埋めて欲しい。俺はあの城で眠りたい』

アルファムに悲しい想いをさせたくなくて、言えなかったけど。
でも、今日は無理でも、明日にはちゃんと言おう。



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