炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
324 / 432

3

しおりを挟む
奏の想い  3

カエンの誕生日兼次期国王就任の儀式は、厳かにかつ盛大に行われた。
朝から快晴で天気も良く、正面の広場には、大勢の民が集まって歓声をあげていた。
街の方からも賑やかな音楽が聞こえていて、あちこちで祭りが行われているようだ。

形式的な儀式を終え、赤いマントを羽織ったカエンを見て、俺は感激で涙を流した。
十三歳といえば、元いた世界では中学生になったばかりで、まだまだ子供だ。
でもこの世界では、もう大人扱いされる。
そしてカエンは、他の子供と比べても、しっかしている。それは、俺が病がちで頼りなかったから、早く大人にならなければいけなかったのかもしれない。

ーーあんなに我儘でいたずらっ子だったカエンが…。

そう思うと、俺は声を漏らして泣いてしまった。
そんな俺を、アルファムが優しい目をして抱き寄せた。
カエンは、泣く俺を見て照れ笑いをしていたけど。

アルファムと俺とカエンの三人でバルコニーに出ると、城が揺れんばかりの大歓声が上がった。
アルファムや俺の名前も聞こえるけど、カエンを呼ぶ声が一番多い。

「カエンは人気者だよなあ。こんなにも民から愛されてると、安心だね」
「そうだな」

俺の肩を抱くアルファムに、そっと囁く。
アルファムは、この国の象徴である赤い髪をした偉大なる王。
俺は、本当はただの人なんだけど、髪が黒いだけで、神の子だと言われている。
その偉大な王とそっくりの顔で、尊いと言われる黒髪のカエンは、子供の頃から絶大な人気があった。

民から愛されているなら、この先も安泰だろう。だからと言って気を抜かずに、カエンにはよい国造りをして欲しい。
その時、俺が傍にいれば、全力で協力する。
でもきっと、いない可能性の方が高いと思う。
だからアルファムには、俺の分もカエンを導いてあげて欲しいな。
なんて、偉そうに思ってみるけど、俺には導くほどの政治力はない。
ま、心配しなくてもアルファムが、カエンを立派な王にしてくれるだろう。カエンも自身の力で、立派な王になるだろうな。

民に手を振る眩しいカエンの姿を見て、俺はまた涙を流す。

「泣き虫め…」

アルファムが、俺を更に強く抱き寄せて向きを変え、民から俺の姿を隠して、頬に流れる涙を熱い唇で吸った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい

りまり
BL
 僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。  この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。  僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。  本当に僕にはもったいない人なんだ。  どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。  彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。  答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。  後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。

処理中です...