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番外編 実生(みしょう)
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番外編 実生(みしょう)
「カエン様!廊下を走っては危ないですよ!」
「わかってる!気をつけるから、今は大目に見て!」
廊下を急いで走る俺の後ろから、シアンのよく通る声がかかる。
俺は、足を止めずに少し後ろを振り返り、シアンに答えてすぐ前を向いた。
廊下を進んだ突き当たりにある階段を駆け下り、目の前に現れた扉を開ける。
たっぷりの陽光を浴びた中庭の石畳が眩しくて、思わず目を細めた。
「カエン、そんなに慌ててどうしたの?」
優しい声が聞こえて、そちらを向く。
中庭の真ん中にある泉の縁に腰掛けて、母さまが俺を見て笑っていた。
「カナ!今日は気分はどう?しんどくない?」
母さまに近づきながら、俺は羽織っていたマントを脱いで腕にかける。
「うん、大丈夫。天気がいいからさ、日に当たりたくて出て来ちゃった」
「本当、空が青くていい天気だよな。でも風が少し冷たいし冷えるといけないから、これ羽織って」
俺は、腕にかけていたマントを、母さまの肩にかけた。
母さまは、マントを両手で引き寄せて、「ありがとう」と微笑んだ。
「カエン、帰って来るの早かったね。アルも一緒?」
「いや、父さまは、ローラントおじさんの所に寄ってるよ。おじさんから来て欲しいって連絡があったみたいだよ」
「ふーん、なんだろ。俺も久しくローラントに会ってないなぁ」
「来月に俺の誕生日があるだろ。その時に来てくれるんじゃない?今年は、俺が次の王として正式に任命される儀式があるしさ」
「あ、そうだね。その時に会えるか」
母さまの隣に座って、青い空を仰ぎながら話す。
ローラントおじさんは、父さまの母親違いの弟だ。俺が三歳になるまでこの城にいて、いっぱい可愛がってもらったけど、今は王都の次に大きな領地の領主として、炎の国を支えてくれている。
俺は、朝早くから父さまと数人の臣下と共に、王都近辺の領地を、飛翔馬で視察して回っていたのだ。
「ふふっ」と母さまの笑い声が聞こえて、俺は首を傾げて母さまを見た。
「なに?」
「いや…、十二歳のカエンの方が、俺よりも大きくなったなぁって、何か嬉しくなった」
「カナが特別小柄なんだよ。見てると本当に心配になる」
「俺からすると、この世界の人達が特別大きいんだけどね。だって、俺は元の世界では、平均的な大きさだったんだよ?」
「ふーん。じゃあ、カナがいた世界に俺が行くと、驚かれるね」
「どうだろ?カエンは綺麗な顔をしてるからモテるかも」
「綺麗?父さま似なのに?」
「え?アルってめちゃくちゃ綺麗じゃん」
「…そうなのかな」
父さまは、確かに整った顔をしてるけど、綺麗なのかな?よくわからない。
それよりもカナの方が、俺は綺麗だと思う。
「カナの方が綺麗だよ」
「……天然タラシみたいだな…。カエン、女の子を泣かせちゃだめだよ」
天然タラシ?って何のことだ?
それに、俺は女の子を泣かしたりしないよ。
幼い頃に、ディエス国の王女リリーを泣かせてしまってから、女の子には優しくしようと決めてるんだから。
「カエン様!廊下を走っては危ないですよ!」
「わかってる!気をつけるから、今は大目に見て!」
廊下を急いで走る俺の後ろから、シアンのよく通る声がかかる。
俺は、足を止めずに少し後ろを振り返り、シアンに答えてすぐ前を向いた。
廊下を進んだ突き当たりにある階段を駆け下り、目の前に現れた扉を開ける。
たっぷりの陽光を浴びた中庭の石畳が眩しくて、思わず目を細めた。
「カエン、そんなに慌ててどうしたの?」
優しい声が聞こえて、そちらを向く。
中庭の真ん中にある泉の縁に腰掛けて、母さまが俺を見て笑っていた。
「カナ!今日は気分はどう?しんどくない?」
母さまに近づきながら、俺は羽織っていたマントを脱いで腕にかける。
「うん、大丈夫。天気がいいからさ、日に当たりたくて出て来ちゃった」
「本当、空が青くていい天気だよな。でも風が少し冷たいし冷えるといけないから、これ羽織って」
俺は、腕にかけていたマントを、母さまの肩にかけた。
母さまは、マントを両手で引き寄せて、「ありがとう」と微笑んだ。
「カエン、帰って来るの早かったね。アルも一緒?」
「いや、父さまは、ローラントおじさんの所に寄ってるよ。おじさんから来て欲しいって連絡があったみたいだよ」
「ふーん、なんだろ。俺も久しくローラントに会ってないなぁ」
「来月に俺の誕生日があるだろ。その時に来てくれるんじゃない?今年は、俺が次の王として正式に任命される儀式があるしさ」
「あ、そうだね。その時に会えるか」
母さまの隣に座って、青い空を仰ぎながら話す。
ローラントおじさんは、父さまの母親違いの弟だ。俺が三歳になるまでこの城にいて、いっぱい可愛がってもらったけど、今は王都の次に大きな領地の領主として、炎の国を支えてくれている。
俺は、朝早くから父さまと数人の臣下と共に、王都近辺の領地を、飛翔馬で視察して回っていたのだ。
「ふふっ」と母さまの笑い声が聞こえて、俺は首を傾げて母さまを見た。
「なに?」
「いや…、十二歳のカエンの方が、俺よりも大きくなったなぁって、何か嬉しくなった」
「カナが特別小柄なんだよ。見てると本当に心配になる」
「俺からすると、この世界の人達が特別大きいんだけどね。だって、俺は元の世界では、平均的な大きさだったんだよ?」
「ふーん。じゃあ、カナがいた世界に俺が行くと、驚かれるね」
「どうだろ?カエンは綺麗な顔をしてるからモテるかも」
「綺麗?父さま似なのに?」
「え?アルってめちゃくちゃ綺麗じゃん」
「…そうなのかな」
父さまは、確かに整った顔をしてるけど、綺麗なのかな?よくわからない。
それよりもカナの方が、俺は綺麗だと思う。
「カナの方が綺麗だよ」
「……天然タラシみたいだな…。カエン、女の子を泣かせちゃだめだよ」
天然タラシ?って何のことだ?
それに、俺は女の子を泣かしたりしないよ。
幼い頃に、ディエス国の王女リリーを泣かせてしまってから、女の子には優しくしようと決めてるんだから。
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