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部屋に戻る途中で、母さまが「少しいい?」と言って、使用人たちが集まる部屋に行った。
みんな母さまを見ると、「カナデ様」と笑顔で挨拶に来る。
母さまと手を繋いでる僕にも、笑顔で声をかけてくる。
「カナデ様、こんにちは。今度来られます来客の料理のことですけど…」
「カナデ様、この前仰っていた物を仕入れております」
「カエン様、こんにちは。少し前にリオ様が捜してらっしゃいましたが、また何か悪戯を…?」
集まってきた数人に、母さまは一人ずつ丁寧に話をしている。
俺もしょうがないから、話しかけてきた若い女の使用人と話をした。
「リオが騒ぎすぎなの。それにちゃんと謝ったもん」
「あら、偉いですね。ふふ、カエン様は本当に可愛いです」
「可愛くない!俺は、かっこいいんだ!」
「ふふ、ごめんなさい。言い方を間違えました。カエン様は、かっこいいです。大きくなられましたら、王様よりもかっこよくなると思います」
「ほんとっ?…でも、父さまみたいな燃える赤の髪じゃないもん…」
女の人は、目線を俺に合わせてしゃがむと、俺の髪をそっと撫でた。
「確かに王様の赤い髪は素敵ですけど、同じような赤い髪を持つ人は、他にもいます。でも、この艶やかな美しい黒髪は、カエン様とカナデ様だけなのですよ?カエン様も聞いたことがあるでしょう?カナデ様は、神の世界からいらっしゃった方なのです。その方の血を引くカエン様は、この世界で一番かっこよくて美しい王になります」
また、いつものやつだ。
いつも父さまやリオ、シアンやホルガーにも言われるやつだ。
母さまは大好きだけど、みんながきれいな黒髪だって言うけど、でもっでもっ。
「そんなの知らないっ!俺は、赤い髪がいいっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
ぽかんと口を開けた女の人が、すぐに「余計なことを言いました。申し訳ありません」と頭を下げて離れた。
女の人を見送って顔を上げると、母さまが、とても悲しそうな顔で俺を見ていた。
「カエン様…なんてことを…」
「大丈夫だよ。みんな、仕事の邪魔をして悪かったね。カエン、部屋に戻ろうか」
母さまと同じ悲しそうな顔をした一人が、俺を責めるように言った言葉を、母さまが止める。
母さまは、すぐに笑顔になって、俺の手を握ると歩き出した。
俺は、母さまの悲しそうな顔を見て、胸がちくちくと痛くなった。
だけど、赤い髪がいいって思ってるのも、ほんとのことだもん。
俺は、頭の中と胸の中がぐちゃぐちゃになって、よくわからないまま泣き出してしまった。
みんな母さまを見ると、「カナデ様」と笑顔で挨拶に来る。
母さまと手を繋いでる僕にも、笑顔で声をかけてくる。
「カナデ様、こんにちは。今度来られます来客の料理のことですけど…」
「カナデ様、この前仰っていた物を仕入れております」
「カエン様、こんにちは。少し前にリオ様が捜してらっしゃいましたが、また何か悪戯を…?」
集まってきた数人に、母さまは一人ずつ丁寧に話をしている。
俺もしょうがないから、話しかけてきた若い女の使用人と話をした。
「リオが騒ぎすぎなの。それにちゃんと謝ったもん」
「あら、偉いですね。ふふ、カエン様は本当に可愛いです」
「可愛くない!俺は、かっこいいんだ!」
「ふふ、ごめんなさい。言い方を間違えました。カエン様は、かっこいいです。大きくなられましたら、王様よりもかっこよくなると思います」
「ほんとっ?…でも、父さまみたいな燃える赤の髪じゃないもん…」
女の人は、目線を俺に合わせてしゃがむと、俺の髪をそっと撫でた。
「確かに王様の赤い髪は素敵ですけど、同じような赤い髪を持つ人は、他にもいます。でも、この艶やかな美しい黒髪は、カエン様とカナデ様だけなのですよ?カエン様も聞いたことがあるでしょう?カナデ様は、神の世界からいらっしゃった方なのです。その方の血を引くカエン様は、この世界で一番かっこよくて美しい王になります」
また、いつものやつだ。
いつも父さまやリオ、シアンやホルガーにも言われるやつだ。
母さまは大好きだけど、みんながきれいな黒髪だって言うけど、でもっでもっ。
「そんなの知らないっ!俺は、赤い髪がいいっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
ぽかんと口を開けた女の人が、すぐに「余計なことを言いました。申し訳ありません」と頭を下げて離れた。
女の人を見送って顔を上げると、母さまが、とても悲しそうな顔で俺を見ていた。
「カエン様…なんてことを…」
「大丈夫だよ。みんな、仕事の邪魔をして悪かったね。カエン、部屋に戻ろうか」
母さまと同じ悲しそうな顔をした一人が、俺を責めるように言った言葉を、母さまが止める。
母さまは、すぐに笑顔になって、俺の手を握ると歩き出した。
俺は、母さまの悲しそうな顔を見て、胸がちくちくと痛くなった。
だけど、赤い髪がいいって思ってるのも、ほんとのことだもん。
俺は、頭の中と胸の中がぐちゃぐちゃになって、よくわからないまま泣き出してしまった。
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