炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
276 / 432

番外編 芽吹き 74

しおりを挟む
カエンのお披露目が終わった翌日から、各国からお祝いの品が届き始めた。
月の国と風の国からも届いたけど、シルヴィオ王やバルテル王子は、絶対に心から祝ってはいないと思う。
俺が関わったことで、炎の国に対して良い感情は持っていないはずだし。
少し前に、月の国は炎の国の国境にある街を攻めようとしてたし。
それでも国同士の付き合いがあるから、形式的にでもお祝いをするんだなあ…と、大広間の隣の控えの間に積まれたお祝いの品々を見て思った。



お披露目から十日後に、水の国スイ国の王、レオナルトが炎の国まで来てくれた。
その日、アルファムに呼ばれて謁見の間に行くと、光沢のある黒い上着の正装姿のレオナルトが、両手を広げて待っていた。
俺は嬉しくてレオナルトの元へ駆け寄った。

「レオン!来てくれたのっ?元気そうだね!」
「カナデ、おめでとう!危険な出産をよく乗り切ったな。出来ることなら俺の子を産んで欲しかったが…」
「スイ国王!いらぬことは言わないでもらおうか。それとカナに触れるな」

俺を抱きしめようとするレオナルトに、アルファムが鋭い言葉を投げる。
レオナルトは、渋い顔でアルファムを見て俺の肩に両手を置くと、上半身を屈めて顔を覗き込んできた。

「エン国王は相変わらずやかましいな。カナデ、少し痩せたか?大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。もう元気だよ。最近はカエンもよく眠ってくれるから、俺も睡眠が取れてるし」
「カエン王子か…。王子は今どこに?」
「部屋で寝てる。リオが見てくれてるんだ。ねえレオン、カエンに会ってくれる?」
「もちろん。噂だと、カナデと同じ黒髪だと聞いたぞ」
「そう!目はアルと同じ緑で綺麗なんだよ。アル、レオンを部屋に連れて行ってもいい?」

俺の傍に来て、レオナルトから遮るように俺の肩を抱き寄せるアルファムを見上げて聞く。
アルファムは、険しい顔をしていたのを、一瞬で優しい顔にして俺の額にキスをした。

「…仕方ないな。祝いの品をもらってるしな。追い返すわけにもいかぬか。まあ見たいのなら、俺達の自慢の息子を見てもらうか」
「アルってば…またそんな言い方をして。でも、カエンを見て欲しいよねっ。すっごく可愛いから!」

俺もアルファムの腰に手を回して笑いながら話していると、前方から咳払いが聞こえた。

「胸糞わる……、いや、恥ずかしいからやめてくれないかな。ではカナデ、部屋に案内してくれ」
「あっ、ごめんね?じゃあ着いてきてくれる?」

俺がアルファムから離れて歩き出そうとすると、アルファムが「行くぞ」と俺の肩を抱いて扉に向かった。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...