炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
263 / 432

番外編 芽吹き 61

しおりを挟む
「アル…、子供と張り合わないでよ。俺は、アルもちびアルも一番大切だよ」
「ぐっ…、まあ、そうだがな。こいつは、髪色はおまえ似だが、性格は俺に似ている気がするのだ…」
「それは困ったねぇ。パパは我儘な所があるからねぇ。ま、そこも好きなんだけど」
「カナ…。性格もおまえに似れば優しい男に育つのだがな」
「優しい男はモテるよ、きっと。……ん?ちびアルは男の子?」
「そうだ。王位継承権第一位の王子だ」
「そっかあ!綺麗な顔してるから女の子かと思ったよ。ちびアルぅ、一緒に馬に乗って翔ぼうな」
「俺もついて行くぞ」
「ふふっ、わかってるって。あ~可愛い。ずっと抱っこしてたい。…けど、なんか目が回ってきちゃった…」
「カナ!だから無理はするなとっ」
「アル、大きな声出しちゃだめ。ちびアルがびっくりしちゃう…。ちびアル、俺と一緒に寝ようか?」

ちびアルを胸に抱いたまま、そっと横になる。
俺のすぐ傍にちびアルを寝かせて、小さなお腹に手を乗せる。

「ごめんね。すぐに元気になるからね。俺が元気になったら、アルと三人で中庭に散歩に行こう。ちびアルも気にいると思うよ」

不思議そうにこちらを見ていたちびアルが、小さな手で俺の指を掴んだ。
小さな手なのに、意外と力が強くて、そんな些細なことにも感動してしまう。

「ふふ、ちびアルは力が強いね。俺…すぐに身長も力も追い越されそ…う……ん?」
「カナ?寝たのか?」

急に静かになった俺を気にして、アルファムが聞いてくる。
俺は、寝た訳では無い。実際眠くて寝そうになってたけど、あることに気づいて目が覚めた。

俺が死にかけてる時に見た夢の中で、名前を呼んで助け出してくれたあの力強い手。
アルファムの手だと思っていたけど、違う?
もしかして…まさかとは思うけど…ちびアル?
大きくなったちびアルが助けてくれたの?

夢の中だし確証なんて無いけど、俺にはそうとしか思えない。
だから俺は、ちびアルの柔らかい頬に唇を寄せると、「俺を引き戻してくれて、ありがとう」と囁いた。

その後、俺とちびアルはすぐに眠った。
その時の夢の中に、アルに似た黒髪の男の子が現れて『カナが無事でよかった』と、とても眩しい笑顔で笑って言った。



「カナ…カナ、起きろ」
「ん…なに?」
「カナデ様、無理に起こしてしまい申し訳ありません。少し、診させて頂いてもよろしいですか?」
「…あっ、先生っ。ありがとうございました。この子を無事に抱くことができて、嬉しい」

俺は、隣ですやすやと眠るちびアルの頬に、指でそっと触れる。

「いえ、カナデ様が危険でしたのに、私は何も出来ませんでした」
「何もって…。薬を処方してくれたのでしょう?迅速に対応してくれたから、俺は助かったんです」
「いえ、助かったのは、カナデ様の生命力の強さです。よく、頑張りましたね。でも、カナデ様は丸一日危篤状態にあり、しかも出産後で、本当に今は身体が弱っています。くれぐれも無理はしないで下さい。それと、これは栄養補助薬です。もちろん食事をたくさん食べて栄養を摂って頂きたいのですが、まだそんなには食べられないと思います。体力もかなり落ちてますし。ですので、夜寝る前に、こちらを一粒飲んでください。子供に乳を吸わせるのですから、栄養は充分取っていただかないと」
「わかりました……え!ちっ、乳っ?」

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...