炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
227 / 432

番外編 芽吹き 25

しおりを挟む
「ふむ…。しかし、民にも人気の高いおまえが狙われる理由があるのか?もしや、俺に恨みを持つ奴の仕業か?」
「結婚式からは落ち着いてたのに今更ですか?…まさかとは思いますが、カナデの妊娠が誰かに知られてるということは無いでしょうか?」
「なに?」

リオの言葉に、部屋の中に緊張が走る。
俺の妊娠は極秘裏のことなのに、誰かに知られている?
だとしたら、お腹の子を狙ったっていうこと?

「失礼します。お話はそれぐらいにして、今はカナデ様を休ませてあげて下さい。カナデ様、何も考えずゆっくりと休むのですよ?あなたが不安を抱えてるとお腹の子にもよくありません。ではお薬を置いておきますので飲んで下さい」
「はい…。ありがとうございます」
「まだ油断は禁物です。絶対に安静になさって下さい」

医師の真剣な表情に、俺も真剣に頷く。
医師と共に「後でまた来ます」と言って、リオも部屋を出て行った。

アルファムに起こしてもらって薬を飲み、再び横になる。
ベッドの傍から離れようとしないアルファムに笑って、仕事に戻るように言う。

「アル、仕事の邪魔してごめんね…。俺はもう大丈夫。寝るから気にしないで仕事の続きして」
「だが…」
「本当に大丈夫だって。同じ部屋にいるんだし。何かあったら呼ぶから」
「…ん、わかった。ゆっくり休めよ」

アルファムは、俺の額にキスをすると、ようやく書類が積まれた机に戻った。
書類を見るアルファムの端正な横顔を見つめて、心の中でもう一度謝る。

ーーアル、本当にごめんね。軽率なことしちゃったな…。今度からは絶対に一人で動くのはやめよう。この世界の神様、もう無茶はしないから、この子を助けて。俺の命を投げ出してもいいから、お願いします。

薬のせいか、急速に眠くなり目を閉じる。
こんなこと口に出して言ったら、きっとアルに怒られるよな…と微かに笑う。
でも、この子は俺の命よりも大事だ。もちろんアルファムも。
大切なものが増えることは幸せだけど、怖くもある。
俺は徐々に収まってきたお腹の痛みに安堵の息を吐いて、眠りに落ちた。



話し声に気づいて、目を覚ました。
眠い眼を擦りながら「アル…?」と声を出す。

「起きたのか?気分はどうだ?」

すぐにアルファムが俺の所へ来る。
大きな手で俺の頬を撫でて、唇にキスをする。

「ん…、お腹痛いの治ったよ。あ、シアン来てたの?」

アルファムの後ろに、シアンの顔が見える。
シアンは、俺と目が合うなり頭を下げた。

「カナデ様、大変な目に合われましたね。俺は留守にしていて、カナデ様の一大事に助けることが出来ませんでした。それに、日の浅い使用人を迂闊に城の奥にまで来させるような緩い警備をしてしまいました…。本当に申し訳ない。もう二度とこのようなことが無いように警備も強化しました。カナデ様は安心して、アルファム様の傍でゆっくりと過ごして下さい」


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

処理中です...