炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
211 / 432

番外編 芽吹き 9

しおりを挟む
夕食の後、昨日と同じようにアルファムと泉の水に浸かると、部屋に戻って子胞薬を飲んだ。
そしてベッドに上がり、アルファムの腕の中で目を閉じる。

「おやすみ、カナ」
「うん…おやすみ…」

アルファムに髪の毛を撫でられて気持ちよくなり、眠りに落ちそうになって、慌てて瞼を持ち上げる。

「いやいやっ、おやすみじゃなくてっ。アル、今日はしないの?」

アルファムを見上げて、少し唇を突き出す。
その突き出た唇にキスをして、アルファムがまた俺の髪を撫でる。

「しない。濃い子種をカナの中に注ぐために、数日は我慢だ」
「こ、濃い…って…。わかった、俺も我慢する。赤ちゃんが出来る確率を上げたいもんね」
「カナが腕の中にいるのに我慢するのは辛いが、仕方ない。十五日後には抱き潰すから覚悟しておけよ?」
「え…こわ…。う、うん、わかった。それまでには、様々なことを覚悟しておく」

アルファムを見つめて、力強く頷く。

「よし。寝不足も身体に悪いからな。十五日後に備えて、たくさん寝ろ」
「アルもだよ。アルがたまに夜中に起きて、仕事をしてるの知ってるんだからな!」
「…そっと起きたつもりだったが、起こしてしまってたのだな。悪い」
「俺は別にいいの!アルは日中も忙しいんだから、夜ぐらいはしっかり寝ない…と…」
「どうした?」

俺は一度俯いて、ハッと気づいて再びアルファムを見る。

「アル…夜中に仕事してたのって、もしかして…俺のため?日中、俺と過ごす時間を作るために…」
「まあ…そうだが、どちらかというと俺のためだ。俺がカナと日中過ごしたいから、夜中に仕事をしていたのだ」
「ごめん…。前に俺が、『毎日少しでいいからアルと二人で過ごす時間が欲しい』って言ったから…」

俺は、アルに迷惑をかけてたんだ…と泣きそうになる。
情けない俺の顔を覗き込んで、アルファムが「なんて顔をしてる」と笑う。

「カナ、俺は体力がある。睡眠もカナの半分程で事足りる。実際、カナと出会うまでは、今よりもずっと少ない睡眠だったぞ。だからカナは何も気にすることはない」
「…ほんと?」
「本当だ。だがカナは、俺よりも身体が小さいし体力もない。だから俺を気にせずたっぷりと寝てくれないと困る。特にこれからは、カナの身体に計り知れぬ負担がかかることになる。出来れば一日中寝ていて欲しいくらいだ」
「一日中はさすがに無理だけど…。わかった。いつもアルが忙しそうなのに遅くまで寝てて悪いなぁと思ってたけど、寝たいだけ寝るよ?いい?」
「ああ。俺はカナの寝顔を見るのも好きだからな」

アルファムが、俺を抱きしめて顔中にキスを落とす。
ああ…俺はなんて幸せなんだろう、とキスを受けながら、そっと目を閉じた。






しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

処理中です...