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番外編 14
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「ところで、なぜあんな所にいたんだ?歩けないならまだ寝ていれば良かったのに」
「起きたらアルがいなかったから、会いに行こうとしてたんだよ。そうしたら廊下でリオに会って、表にルートが来てるって教えてくれたから」
「おまえは律儀だからな。それで挨拶に行ったのか」
「そう。リオが背負って連れて行ってくれたの」
「あいつ…余計なことを」
アルファムが、ちっ…と舌打ちをしながら俺を抱き抱えて部屋に入り、椅子に降ろす。
目の前のテーブルには、パンやフルーツなどの朝食が並べられてある。
「美味しそう!もしかして、食べないで俺を捜してくれてたの?」
「ああ。食事は、どんなに忙しくても、なるべく一緒に摂る約束だからな」
「ありがとう。じゃあ食べようよ。いただきます!」
「ふっ、元気だな」
手を合わせた俺の頬を、アルファムがするりと撫でる。
俺は、パンに齧りつきながらアルファムを見つめた。
「ん?なんだ?」
「ほうひえばさ…」
「喉に詰まるぞ」
アルファムが笑って、パンを一切れ口に放り込む。
俺は、爽やかな柑橘類が薫る紅茶でパンを飲み込むと、「そういえばさ」と続けた。
「月の国との国境から帰って来るの、早かったね?向こうに着いたばかりだと思ってたんだけど…」
「ああ、途中で引き返してきたからな」
「えっ、そうなの?」
「道中で、国境近くを守っていた軍隊長から、月の国の軍隊が全て撤退したと連絡が来た。なのですぐさま、馬首を返して戻って来たのだ」
「そうだったんだ…」
月の国が、早々に撤退してくれて良かった。
それなら、被害も少なかっただろう。怪我人や死人が出てないといいな…。
「じゃあ、帰って来る途中で、ホルガーからの使者に会ったんだね?」
「そうだ。俺の子供を産んだと言ってる女がいると。明らかに怪しいと思い、シアンに女のことを調べるよう頼んでいたのだ」
早く帰って来れたのは、そういう理由だったのか。アイリスのことも、アルファムが素早く対処してくれて良かった。
俺は、全てアルファムに任せて、大人しく城で待ってれば良かったんだ。
「アル…ごめんね。城を抜け出したりして。俺、ショックでさ…。どうすればいいか分からなくなったんだ。でも、また今回みたいなことがあっても、俺はもう逃げないよっ」
「ふっ、本当か?でも大丈夫だ。二度は無い」
アルファムが、太陽のような笑顔で俺の口の中にぶどうを一つ入れる。
俺は、笑顔のアルファムを見ながら、ぷりぷりとした大きな実を噛んだ。途端に甘い果汁が溢れ出てきて、口の中に広がる。
「これ甘くて美味しい!」
「どれ…」
アルファムの大きな手が俺の頬に触れ、端正な顔が近づく。
アルファムは、俺を見つめたまま唇を塞ぎ、舌を伸ばして口内をかき混ぜると、「本当だ。甘いな」と優しい声で囁いた。
「起きたらアルがいなかったから、会いに行こうとしてたんだよ。そうしたら廊下でリオに会って、表にルートが来てるって教えてくれたから」
「おまえは律儀だからな。それで挨拶に行ったのか」
「そう。リオが背負って連れて行ってくれたの」
「あいつ…余計なことを」
アルファムが、ちっ…と舌打ちをしながら俺を抱き抱えて部屋に入り、椅子に降ろす。
目の前のテーブルには、パンやフルーツなどの朝食が並べられてある。
「美味しそう!もしかして、食べないで俺を捜してくれてたの?」
「ああ。食事は、どんなに忙しくても、なるべく一緒に摂る約束だからな」
「ありがとう。じゃあ食べようよ。いただきます!」
「ふっ、元気だな」
手を合わせた俺の頬を、アルファムがするりと撫でる。
俺は、パンに齧りつきながらアルファムを見つめた。
「ん?なんだ?」
「ほうひえばさ…」
「喉に詰まるぞ」
アルファムが笑って、パンを一切れ口に放り込む。
俺は、爽やかな柑橘類が薫る紅茶でパンを飲み込むと、「そういえばさ」と続けた。
「月の国との国境から帰って来るの、早かったね?向こうに着いたばかりだと思ってたんだけど…」
「ああ、途中で引き返してきたからな」
「えっ、そうなの?」
「道中で、国境近くを守っていた軍隊長から、月の国の軍隊が全て撤退したと連絡が来た。なのですぐさま、馬首を返して戻って来たのだ」
「そうだったんだ…」
月の国が、早々に撤退してくれて良かった。
それなら、被害も少なかっただろう。怪我人や死人が出てないといいな…。
「じゃあ、帰って来る途中で、ホルガーからの使者に会ったんだね?」
「そうだ。俺の子供を産んだと言ってる女がいると。明らかに怪しいと思い、シアンに女のことを調べるよう頼んでいたのだ」
早く帰って来れたのは、そういう理由だったのか。アイリスのことも、アルファムが素早く対処してくれて良かった。
俺は、全てアルファムに任せて、大人しく城で待ってれば良かったんだ。
「アル…ごめんね。城を抜け出したりして。俺、ショックでさ…。どうすればいいか分からなくなったんだ。でも、また今回みたいなことがあっても、俺はもう逃げないよっ」
「ふっ、本当か?でも大丈夫だ。二度は無い」
アルファムが、太陽のような笑顔で俺の口の中にぶどうを一つ入れる。
俺は、笑顔のアルファムを見ながら、ぷりぷりとした大きな実を噛んだ。途端に甘い果汁が溢れ出てきて、口の中に広がる。
「これ甘くて美味しい!」
「どれ…」
アルファムの大きな手が俺の頬に触れ、端正な顔が近づく。
アルファムは、俺を見つめたまま唇を塞ぎ、舌を伸ばして口内をかき混ぜると、「本当だ。甘いな」と優しい声で囁いた。
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