炎の国の王の花

番外編 8

「アル…っ、皆の前だよっ」
「構わん。カナが可愛い顔をするのが悪い」
「えー？」

恥ずかしいけど嬉しくて、俺はアルファムの胸に頬をペタリとつける。
ホルガーもリオも見慣れている光景なので、またかという顔で笑っている。
でも、アイリスの怒りに火を注いだらしく、突然金切り声が大広間に響いた。

「何をしてるの！私はアルファム様の跡継ぎを産んだのよっ。その場所にいるべきは私です！子供を産めないカナデ様はいらないっ。アルファム様の傍から離れてっ！」

俺は思わず息を止める。心臓が刃物で刺されたようにズキンと痛い。言葉の刃って何て怖いんだろうと、無意識にアルファムの服を握りしめた。
その瞬間、アルファムが右手を前に突き出す。
俺は咄嗟にアルファムの右腕にしがみついて叫んだ。

「アルっ、だめ！！」
「なぜ止める？こいつはカナを何度も侮辱した。もう我慢ならぬ」
「わかってるけど！だけどだめっ！アイリスがいなくなったらレニはどうなるの？俺は大丈夫だからっ、だから落ち着いてっ」
「俺のことならまだしも、カナを侮辱することだけは許せない」
「俺はいいから！お願いだからやめてっ！アイリスを傷つけたらアルを嫌いになるよっ」
「なにっ？」

ふっ…とアルファムの腕から力が抜ける。
俺は、大きく息を吐いてアルファムを見上げた。
アルファムが困った顔をして、俺の頬を大きな手で包む。

「俺の妻は我儘で困るな…。俺はおまえに嫌われることが一番怖い。カナ、なぜ泣く？」
「かっ、仮にも情を通い合わせたことのある人でしょ？酷いことしないで…。まだ幼いレニのことも考えてあげてよ…」
「だが、カナに対して酷いことを言った。王族に対しての非礼は、死罪に値する。カナは、あのようなことを言われて怒ってないのか？」
「怒ってるよ。俺の心にグサグサ刺さって、胸が痛いよ。でも、俺が怒ってアイリスが処刑されたら、レニから母親を奪うことになる。レニの未来が変わってしまう。それは嫌だよ。それにさ、前みたいに毒を盛られたり刺されたりした訳じゃないから…大丈夫。傷ついた心は、アルに慰めてもらうし…」
「そうか」

アルファムが、親指で俺の濡れた頬を拭うと、瞼にキスをした。

「では、すぐに部屋に戻ろう。たっぷりと慰めてやる…」
「アルファム様！ただいま戻りました！」

俺の唇にアルファムが唇を重ねようとしたその時、正面の大扉が開いて、シアンが飛び込んで来た。