炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
168 / 432

王の花 6

しおりを挟む
「ちょっと待てっ」


いきなり声をかけられて、アルファムが憮然と顔を上げる。
俺も後ろを振り向くと、レオナルトが渋い顔でこちらを見ていた。


「なんだ?」
「なんだではない。そういうのは、人目のつかない所でやってくれと言ってるだろう」
「ここは俺の城だ。何をしようと勝手だろうが」


アルファムからは赤い炎が、レオナルトからは青い炎が揺らめいてるように見える。
俺は、慌ててアルファムの服を引っ張ると、上目遣いで首をコテリと傾けた。


「アル…俺、なんだか疲れたなぁ。ちょっと休みたい…」
「なに?大丈夫か?もしや傷痕が痛むのか?早く部屋に行って休もう」
「え?あ、いや…、傷は痛くないよ?でも今日は朝から一日緊張してたから…、疲れた」
「そうか。リオ、俺はカナを部屋に連れて行って休ませる。今夜はカナの為に宴を開くから料理長に…と。カナ、明日の方がいいか?」
「宴を開いてくれるの?俺のために?ありがとう!ううん、今夜で大丈夫だよ。ちょっと休めば元気になるからっ」
「ふっ、無理はするなよ?サッシャ王子もレオナルト王も、それまで部屋で休んでいてくれ。では失礼する」


そう言うと、アルファムが再び俺を抱き上げて部屋へと向かう。
俺は、アルファムの肩越しに皆んなへ小さく手を振って、アルファムの肩に頬をペタリとつけた。





「熱はないようだな」


アルファムが、俺の額に掌を当てて優しく笑う。その手をスルリと頬に滑らせ、そっとキスをする。


ここは、俺がこの世界に来てすぐの時に使っていた部屋。あの時と何も変わってなくて、とても懐かしく感じる。
アルファムにベッドに降ろされ、アルファムも俺の隣に寝転んだ。そして、俺を抱き寄せて、何度もキスをする。
唇を軽く吸って、舌先を合わせるだけのキスなのに、俺の全身は早くも蕩けてしまい、熱い息を吐いてアルファムの胸に顔を埋める。
俺の髪を梳く大きな手の感触にうっとりとしながら、ポツリと呟いた。


「アル…、あのさ、お気に入りの赤い服、ボロボロになって捨てちゃったんだ。あの服って、まだある?」
「ん?ああ、気にするな。この城にも何着か持って来てるぞ」
「ほんと?良かった…。でも、この腕輪とペンダントは、大事に持ってたよ。記憶が失くても、とても大事な物だってわかってた」
「そうか。カナ、おまえは可愛いな」
「かっ…、え?ど、どうしたの?」
「記憶を失くしても俺を好きだとか、俺の石を大事にしてたとか、可愛い過ぎるだろ」
「そう?…だって、本当に大事だから…」


ふ…とアルファムの息が、俺の髪の毛に触れる。
俺は、顔を上げて首を伸ばすと、意外と柔らかいアルファムの唇にキスをした。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...