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炎の国の 13
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颯人のマンションからあの崖までは、車で一時間はかかる。だから、十六時前に颯人のマンションを出ることにした。
時間になると、俺はリュックを背負って玄関に向かい、振り返って深く頭を下げる。
颯人…、今度こそ、本当のお別れ。俺、颯人に裏切られた時は、死のうと思ったぐらいに悲しかったよ。だけど、その事があったから、アルファムと出会えた。だから今は、颯人には感謝してる。それに、また俺を愛してると言ってくれて、優しくしてくれて、ありがとう。颯人のことは、ずっと忘れないよ。でも、颯人は俺を忘れて幸せになって。
涙が溢れそうになる目を何度も瞬かせると、以前に『出掛ける用事があれば、これを使って』と颯人から渡されていた鍵で玄関に鍵をかけて、エレベーターで一階に降りた。
一階にある鍵付きのポストに、部屋の鍵を入れる。マンションのエントランスを出て、もう一度、颯人の部屋を見上げた。
洗濯物も布団も取り込んで、きちんと畳んできた。リュックに入らなかった服は置いてきちゃったけど、俺が捨てることは出来ないから、颯人が処分してくれると助かる。
あとやり残したことは…。あっ!冷蔵庫のプリン、食べてなかった!颯人が買ってきてくれたあれ、美味しいと有名な店のやつだったのに…。でも、まあいっか。炎の国にも、美味しいプリンがあるもんね!
炎の国で食べたプリンの味を思い出して、笑顔で歩き出した俺の頭の中に、アルファムの声が聞こえる気がする。
『なんだ?カナは、俺じゃなくプリンに会いたいのか?』って。
そんなことないよ。アルに一番会いたいに決まってるじゃん!
俺は足取り軽く駅に向かい、そこでタクシーに乗って、あの崖へと向かった。
十七時を過ぎた頃に、崖の近くにある街に着いた。こんな時間に、あの崖の側で降りたら怪しまれそうだから、駅でタクシーを降りた。
駅から十五分程歩いて、崖への入り口に着く。そこから更に五分歩いて、五ヶ月前に、俺が落ちた崖の上に立った。
あの日と同じ時間だけど、まだ空が青い。あの日のように、夕焼けに空が赤く染まるまで待たないとダメなのかな…と思ったその時、背後から突然声がして、身体が大きく跳ねた。
「おまえ!やっと見つけたぞ!」
恐る恐る声がする方を振り返ると、数メートル離れた松の木の陰から、俺を殺そうとした、あの死神みたいな男が、あの時と同じように黒いマントを羽織って出てきた。
「あっ!あんたっ、なんでここに…っ」
「やはり生きていたっ!いつかまた、ここに現れると思って、ずっと待っていたのだ!おまえをあの世界へと再び連れて行き、今度こそ、その命をもらうためにっ!」
「ええっ!まだそんなこと言ってるの!?しつこいなぁ。まあでもちょうどよかっ…。あっ、いやっ。そ、そう易々と俺は連れて行かれないからなっ」
「だまれっ!俺はよくわからぬこの世界で、幾日も過ごしておまえを待っていたのだっ。あの日、この崖の下で目覚めて、大きな岩の向こう側に倒れているおまえを見つけて、トドメを刺しに行こうとしたら、数人の変な服装の連中が来て、おまえを連れ去ってしまった。後を追いかけようにも、足の速い奇妙な乗り物で、あっという間に行ってしまい追いかけることが出来なかった。でも、おまえは死んではいなかった。なら、もう一度、あちらの世界へ連れて行って殺せば、俺が世界の王になれる。それに、おまえはあの炎の国の王に会いたいと、必ずこの崖へと戻って来るだろうと思いずっと待っていたのだ」
へぇ…、何もわからないこの世界で、約一ヶ月もよく待ってられたよな…と変に感心してしまう。まあ、こいつは魔法が使えるんだし、何とかなるのか、と思って、ふとあることに気づいた。
時間になると、俺はリュックを背負って玄関に向かい、振り返って深く頭を下げる。
颯人…、今度こそ、本当のお別れ。俺、颯人に裏切られた時は、死のうと思ったぐらいに悲しかったよ。だけど、その事があったから、アルファムと出会えた。だから今は、颯人には感謝してる。それに、また俺を愛してると言ってくれて、優しくしてくれて、ありがとう。颯人のことは、ずっと忘れないよ。でも、颯人は俺を忘れて幸せになって。
涙が溢れそうになる目を何度も瞬かせると、以前に『出掛ける用事があれば、これを使って』と颯人から渡されていた鍵で玄関に鍵をかけて、エレベーターで一階に降りた。
一階にある鍵付きのポストに、部屋の鍵を入れる。マンションのエントランスを出て、もう一度、颯人の部屋を見上げた。
洗濯物も布団も取り込んで、きちんと畳んできた。リュックに入らなかった服は置いてきちゃったけど、俺が捨てることは出来ないから、颯人が処分してくれると助かる。
あとやり残したことは…。あっ!冷蔵庫のプリン、食べてなかった!颯人が買ってきてくれたあれ、美味しいと有名な店のやつだったのに…。でも、まあいっか。炎の国にも、美味しいプリンがあるもんね!
炎の国で食べたプリンの味を思い出して、笑顔で歩き出した俺の頭の中に、アルファムの声が聞こえる気がする。
『なんだ?カナは、俺じゃなくプリンに会いたいのか?』って。
そんなことないよ。アルに一番会いたいに決まってるじゃん!
俺は足取り軽く駅に向かい、そこでタクシーに乗って、あの崖へと向かった。
十七時を過ぎた頃に、崖の近くにある街に着いた。こんな時間に、あの崖の側で降りたら怪しまれそうだから、駅でタクシーを降りた。
駅から十五分程歩いて、崖への入り口に着く。そこから更に五分歩いて、五ヶ月前に、俺が落ちた崖の上に立った。
あの日と同じ時間だけど、まだ空が青い。あの日のように、夕焼けに空が赤く染まるまで待たないとダメなのかな…と思ったその時、背後から突然声がして、身体が大きく跳ねた。
「おまえ!やっと見つけたぞ!」
恐る恐る声がする方を振り返ると、数メートル離れた松の木の陰から、俺を殺そうとした、あの死神みたいな男が、あの時と同じように黒いマントを羽織って出てきた。
「あっ!あんたっ、なんでここに…っ」
「やはり生きていたっ!いつかまた、ここに現れると思って、ずっと待っていたのだ!おまえをあの世界へと再び連れて行き、今度こそ、その命をもらうためにっ!」
「ええっ!まだそんなこと言ってるの!?しつこいなぁ。まあでもちょうどよかっ…。あっ、いやっ。そ、そう易々と俺は連れて行かれないからなっ」
「だまれっ!俺はよくわからぬこの世界で、幾日も過ごしておまえを待っていたのだっ。あの日、この崖の下で目覚めて、大きな岩の向こう側に倒れているおまえを見つけて、トドメを刺しに行こうとしたら、数人の変な服装の連中が来て、おまえを連れ去ってしまった。後を追いかけようにも、足の速い奇妙な乗り物で、あっという間に行ってしまい追いかけることが出来なかった。でも、おまえは死んではいなかった。なら、もう一度、あちらの世界へ連れて行って殺せば、俺が世界の王になれる。それに、おまえはあの炎の国の王に会いたいと、必ずこの崖へと戻って来るだろうと思いずっと待っていたのだ」
へぇ…、何もわからないこの世界で、約一ヶ月もよく待ってられたよな…と変に感心してしまう。まあ、こいつは魔法が使えるんだし、何とかなるのか、と思って、ふとあることに気づいた。
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