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炎の国の 10
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颯人がピタリと動きを止めて、ゆっくりと身体を起こした。
ベッドの端に腰掛けて、俺の頬を何度も撫でる。
「ごめん…。大事な奏を泣かせちゃダメだよな…。奏が先にシャワーを浴びておいで。俺はここで反省してるから…」
俺は手の甲で顔を拭うと、起き上がって颯人の横顔を見た。
「いい…。颯人の方が濡れてるんだから、先に入って。俺、夕食の用意して来る…」
「ダメだ。奏はまだ体調が万全じゃないし、風邪なんて引かせられない。だから先に入って。ホントにごめんな。もうしないから、許して…」
俯いてしまってよく見えないけど、颯人の声が震えて目の端に光るものが見えた気がする。
俺は、これ以上言っても颯人は折れないだろうと思い、「じゃあ先に入る…」と呟いて、持ったままだった颯人の着替えをベッドの上に置いて部屋を出た。
風呂場に入りお湯を出して頭からかぶる。小さく震えていた身体が温まって、ようやく震えが止まった。
一旦シャワーを止めて、ボディーソープをスポンジに出して泡立てる。身体を洗って泡を洗い流し、ふと鏡に映る顔を見て苦笑いをする。
「ひっどい顔…」
真っ赤な目に腫れぼったい瞼。こんな顔、アルファムには絶対に見せたくない。
俺は、椅子に座って目を閉じた。
すぐにアルファムの太陽のように眩しい笑顔が、頭の中に浮かぶ。
颯人に『名前もどこにいるかも言えるのか?忘れてるんだろ?』と言われた時、『思い出した』と言いたかった。でも、アルファムのこと、どう説明する?こことは違う世界の、炎の国の王だって、赤い髪をして魔法を使うんだって、説明できる?そんなこと言っても、颯人は信じないだろう。それだけじゃなく、俺の頭がおかしくなったと思って、俺をこの部屋から出さないようにするかもしれない。颯人のことだから、『俺が奏を守らないと』とか言って、俺を二度と離さないかもしれない。
…さっき、感情のままに話さなくて良かった。颯人が、まだ俺の記憶がないと思ったままだけど、正直に話せないのだから仕方がない。
颯人にはお世話になってばかりで申し訳ないけど、もう少しだけ、ここにいさせて。アルファムの元へ帰る方法がわかったら、すぐに出て行くから。
俺は、一度大きく深呼吸をすると、シャンプーを手に取って、頭をガシガシと洗い出した。
ベッドの端に腰掛けて、俺の頬を何度も撫でる。
「ごめん…。大事な奏を泣かせちゃダメだよな…。奏が先にシャワーを浴びておいで。俺はここで反省してるから…」
俺は手の甲で顔を拭うと、起き上がって颯人の横顔を見た。
「いい…。颯人の方が濡れてるんだから、先に入って。俺、夕食の用意して来る…」
「ダメだ。奏はまだ体調が万全じゃないし、風邪なんて引かせられない。だから先に入って。ホントにごめんな。もうしないから、許して…」
俯いてしまってよく見えないけど、颯人の声が震えて目の端に光るものが見えた気がする。
俺は、これ以上言っても颯人は折れないだろうと思い、「じゃあ先に入る…」と呟いて、持ったままだった颯人の着替えをベッドの上に置いて部屋を出た。
風呂場に入りお湯を出して頭からかぶる。小さく震えていた身体が温まって、ようやく震えが止まった。
一旦シャワーを止めて、ボディーソープをスポンジに出して泡立てる。身体を洗って泡を洗い流し、ふと鏡に映る顔を見て苦笑いをする。
「ひっどい顔…」
真っ赤な目に腫れぼったい瞼。こんな顔、アルファムには絶対に見せたくない。
俺は、椅子に座って目を閉じた。
すぐにアルファムの太陽のように眩しい笑顔が、頭の中に浮かぶ。
颯人に『名前もどこにいるかも言えるのか?忘れてるんだろ?』と言われた時、『思い出した』と言いたかった。でも、アルファムのこと、どう説明する?こことは違う世界の、炎の国の王だって、赤い髪をして魔法を使うんだって、説明できる?そんなこと言っても、颯人は信じないだろう。それだけじゃなく、俺の頭がおかしくなったと思って、俺をこの部屋から出さないようにするかもしれない。颯人のことだから、『俺が奏を守らないと』とか言って、俺を二度と離さないかもしれない。
…さっき、感情のままに話さなくて良かった。颯人が、まだ俺の記憶がないと思ったままだけど、正直に話せないのだから仕方がない。
颯人にはお世話になってばかりで申し訳ないけど、もう少しだけ、ここにいさせて。アルファムの元へ帰る方法がわかったら、すぐに出て行くから。
俺は、一度大きく深呼吸をすると、シャンプーを手に取って、頭をガシガシと洗い出した。
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