炎の国の王の花

明樹

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炎の国の 9

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颯人が俺の上に被さり、肩に顔を埋める。
骨が軋むほどに強く抱きしめて、「奏…っ」と切なくなるような声で名前を呼んだ。


「なっ、なにっ?どうしたの?早く脱がないと風邪引くよ?」
「…大丈夫だ。俺は鍛えてるから風邪は引かない。…それに、奏がそんな顔をしてるから…っ」
「そんな顔…って?」


もともとエアコンで冷えていた俺の身体が、濡れた颯人に抱きしめられて、更に寒く感じて、カタカタと小さく震え出した。


「どうしたの?震えてる?そんな顔して震えられたら、俺の気持ちが抑えられなくなる…」
「だからっ、そんな顔ってなに?俺は普通だよ」
「奏、俺が帰って来る直前、泣いてただろ?ほら…、目も赤いし瞼が少し腫れてる」


颯人がそう言って、俺の瞼にキスをする。


「あ…っ、やめ、ろっ。それに早く離せよ…」
「なんで?」
「なんで…って、俺が濡れるだろっ。それに今は恋人じゃないんだから。俺には好きな人がいる、って…」
「ああ…ごめん。濡れたら後で一緒にシャワー浴びよう。奏、じゃあ聞くけど、その好きな人って誰?名前言える?どこにいるかもわかってんの?」
「それは…っ」


はあっ、と大きな溜息をついて、颯人が今度は俺の首筋に顔を埋めた。そして俺の耳に唇を寄せて低く囁く。


「名前もどこにいるかも言えないんだろ。だって、忘れてるもんな。なぁ奏、俺は大好きな奏の気持ちを優先したいと思って、奏が『好きな人がいる』と言うから諦めようとした。だけどさ、奏が好きな人のことを思い出せないなら、俺、諦めなくてもいい?というか、諦めきれない。この三週間、奏と暮らして、もうどうしようもないくらい、奏が愛しくなった。今だって、奏を俺のものにしたくて堪らないんだ…。だって、ほら…わかる?」
「…あっ」


颯人が腰を動かすと、硬く大きなモノが、俺の太ももに当たる。


「颯人っ、や…っ!」


颯人を押し退けようと暴れるけど、がっちりと巻きついた腕と、俺よりも大きな身体はビクともしない。
俺は、寒さではなく恐怖でカタカタと身体を震わせて、不覚にも涙を溢れさせた。


「ああ、奏、泣かないで。怖がらないで。俺は奏が大事なんだ。だから無理にはしないよ?…でも、こうしてると思い出さない?俺と愛し合った時のこと…」


颯人が、俺の頬に唇を寄せて涙を吸う。
そのまま少しずつ唇を動かして、俺の耳の穴に舌を挿し入れた。


「…あっ!」
「可愛い…。相変わらず、耳が弱いんだね」


俺の背中がゾクリと震える。
寒さなのか、気持ち悪さなのか、それとも快感を感じてしまったからなのかよく分からなくて、俺は声を漏らして泣き出した。
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